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2020.03.08
2019年度のシカ柵事業
2019年度シカ柵事業まとめ
だいぶ久しぶりの更新になってしまいました。
早池峰山のシカについて、2019シーズンのまとめをしようと思っていたのですが、一度にいろいろ書こうとして結局書けず何ヶ月も経ってしまいました。とりあえず私が見た範囲のこと、岩手県自然保護課(県)と東北森林管理局(国)が早池峰山の南側と薬師岳で行った防鹿柵設置だけに絞って記事にします。
(県も森林管理局も、早池峰山のシカ対策としては今のところ防鹿柵設置と捕獲という二本立てになっていて、またそのための生態調査も行われています。)
防鹿柵の設置は2018年から始まり、今年度が2年目でした。ここではそれだけを簡単に振り返ります。
2019年に先立って、2018年のおさらいをすると2018年は
・岩手県自然保護課→試験的に樹林帯に3箇所で合計100mの植生保護柵を設置。そのうち2箇所は冬になる前にネットだけ下ろす。1箇所は張りっぱなしに。
・東北森林管理局→4箇所に合計200mの植生保護柵を設置。冬季は支柱とネットを撤去。
(2018年の様子は、ほしがらす通信>カテゴリ>シカ で過去記事に見ることができます。)
2019年はこれら前年に設置したネットを拡張したり、新たに追加した、ということになります。
2018年は岩手県、森林管理局とも設置時期がかなり遅く、その効果は限定的なものでした。
そこで2019年は雪解けと同時に柵が設置されることを望んでいましたが、何かわからない様々な事情があったらしく、結局シカの侵入と植物の成長が進んでからとなりました。
ここでは早池峰山南面の柵に限って見てみたいと思います。
6月26日 東北森林管理局岩手南部森林管理署遠野支署、頭垢離に柵を拡張設置。50m→150m
(遠野支署はもう一箇所50m、2018年に設置した柵を2019年も再設置しています)

2019年8月12日撮影
河原の坊コースで最も標高が低い高山植物群落を大きく囲うことができました。ただしもう少し早く設置できればよかったです。ここは早池峰山で最も早く花が開く群落なのです。また、期間中に一部ネットに緩みや隙間が見られました。

6月9日には下ろしたままのネットの内側にシカが来ていました。

8月12日 ネットにやや緩みや隙間ができていました。設置後も時々メンテナンスが必要ということですね。
7月11日 東北森林管理局三陸北部森林管理署、小田越コース東側草原に150mの柵を設置。
この草原は2018年秋に岩手県立博物館の植物専門学芸員によって発見されました。その時すでにシカの糞や足跡、食痕など痕跡が濃く、植物の矮化も見られました。高山帯にありながら登山道からは見えないためシカの生息密度が高いことが推測され、ここを囲うことは今年度の核心事業のはずでした。が、柵の量が足りなかったのか草原全体を閉じて囲われなかったため、柵設置後もシカが高密度で侵入するという残念な結果になりました。

柵設置後の7月14日にも多くのシカが来ていた。写真提供:岩手県立博物館・鈴木まほろ氏

同上 7月14日でもまだ袋角なんですね。

柵の脇に隙間が。2019年8月14日

というか、途中までしかないんですよね。 2019年8月14日

糞も普通に落ちていました。 2019年8月14日

繰り返し食べられて小さくなったナンブトウウチソウ(早池峰山固有種)。2019年8月14日
7月21日 岩手県自然保護課、河原坊コースに昨年設置した柵のネットを張る。
シーズンの当初(5月〜)、県は前年度に設置した三箇所計100mのうちの二箇所は柵を撤去して別の場所に移動することにしていたため、支柱だけが立った状態でしばらくネットを張りませんでした。しかしその後方針が変わり前年度の柵を再び使うことになり、7月21日になりネットを張りました。その時にはシカの食害はかなり進んでいました。また、張り方が緩く、張った後もシカがネット越しに植物を食べているところが自動撮影カメラに写っていました。
この県の柵の一箇所のすぐ隣には森林管理局が設置した柵があり、そちらは6月にネットを張ったため、後日、柵の中の被食度合いの違いがよく分かりましたね。
7月22日 岩手県自然保護課 小田越コース樹林帯・二合目東側・薬師岳登山道に新たに柵を設置。合計300m。

小田越樹林帯での柵設置作業。主にオサバグサの群落を保護します。
作業は岩手県職員、グリーンボランティア、自然公園保護管理員などで行ないました。

完成したところ。

続いて二合目へ。

柵を設置しました。ここにはナンブトウウチソウなどが生育しています。

薬師岳樹林帯の柵。ここもオサバグサが主対象です。
2019年、岩手県自然保護課が初めて予算をとって防鹿柵を設置したことは評価できます (2018年の岩手県による防鹿柵設置はお茶の伊藤園の寄付で柵を購入したものでした)。しかしやはり設置時期が遅すぎました。シカは5月2日には早池峰山の小田越樹林帯で目撃され、二合目東側地点の雪は6月2日には完全になくなっていました。7月22日までにのべ何頭のシカがここに侵入したでしょう。
ちなみに、岩手県が2018年に設置しそのまま撤去せずに冬を越した一箇所の柵。2019年もそのまま設置を続けました。
ここではオミナエシ科のマルバキンレイカがシカの食害を受け2016年にはすっかり咲かなくなっていたのですが、2018年から柵を設置し続けたところ、2019年には一株が開花し、種を実らせました。柵の効果があったのです。いっぽう柵の外では引き続きシカの食害が続いています。

6月11日には仔鹿が写っていました。

8月12日には4年ぶりにマルバキンレイカ一株が開花。

8月26日にもシカが来ていましたが、マルバキンレイカには届きません。

そして結実。よかった。しかしまだ花の咲かない株もあるのです。2019年8月30日
防鹿柵は、積雪期の損傷を避けるため、ネットを下ろすか、支柱も外す形で撤去されました。
10月23日 三陸北部森林管理署 防鹿柵撤去
10月23日 自然保護課 防鹿柵撤去(一箇所を除く)
10月31日 岩手南部森林管理署 防鹿柵撤去
今年はぜひ雪解けと同時に再設置をして欲しいものです。
さて、県と国の事業にあれこれとケチをつけてきましたが、それはこれらの事業が税金で行われているからです。せっかく岩手県、日本、そして世界の宝である早池峰山のシカ対策を県民・国民の税金でやるからには効果的に行われなければなりません。
記事のはじめにも書きましたが、早池峰山のシカ対策事業はこの柵だけではありません。調査や捕獲も行なわれています。
広く一般に周知されているとは言えませんが、事業の概要は、岩手県のウェブサイトで見ることができます。早池峰地域保全対策事業推進協議会の会議資料として公開されているものです。興味のある方はご覧ください。
早池峰地域保全対策事業推進協議会H30会議資料
(シカ対策については25ページから50ページまで)
早池峰地域保全対策推進協議会・平成23年以降の会議録と結果
この協議会は毎年1回開かれていて、今年度の協議会は3月10日(火)。今年度に行われた早池峰山での保全対策がシカに限らず報告されます。話し合うのは委員ですが、傍聴は可能です。直前になってしまいましたが、興味のある方は聞きに行ってみてはいかがでしょうか。
早池峰地域保全対策事業推進協議会
協議会では2020年の保全対策事業についても話し合われることと思います。
シカについて言えば、昨シーズンは侵入頭数が大幅に増加している感じはなかったのですが、前年にある種の植物を食べ尽くしたら今年はまた別の…というように段々に麓で見られる植物の種数が減ってきています。
このあたりのことは、データとともに報告されることと思います。

2019年の小田越樹林帯でのトレンドはカニコウモリでした。今年は姿を消すでしょう。
そして8月〜9月に発生したハヤチネウスユキソウとナンブトウウチソウの大量喪失事件。
原因は分かっていませんが今年どうなるのか、出来るだけ対策は講じておかなければならないと思います。
つまり、
①シカを防ぐような柵で囲う
②ネズミも防げる柵で囲う
③何もしない
の三通りの場所を設けてそれぞれにセンサーカメラで監視。
といった具合に。
協議会でそういう話すんのかなー?
だいぶ久しぶりの更新になってしまいました。
早池峰山のシカについて、2019シーズンのまとめをしようと思っていたのですが、一度にいろいろ書こうとして結局書けず何ヶ月も経ってしまいました。とりあえず私が見た範囲のこと、岩手県自然保護課(県)と東北森林管理局(国)が早池峰山の南側と薬師岳で行った防鹿柵設置だけに絞って記事にします。
(県も森林管理局も、早池峰山のシカ対策としては今のところ防鹿柵設置と捕獲という二本立てになっていて、またそのための生態調査も行われています。)
防鹿柵の設置は2018年から始まり、今年度が2年目でした。ここではそれだけを簡単に振り返ります。
2019年に先立って、2018年のおさらいをすると2018年は
・岩手県自然保護課→試験的に樹林帯に3箇所で合計100mの植生保護柵を設置。そのうち2箇所は冬になる前にネットだけ下ろす。1箇所は張りっぱなしに。
・東北森林管理局→4箇所に合計200mの植生保護柵を設置。冬季は支柱とネットを撤去。
(2018年の様子は、ほしがらす通信>カテゴリ>シカ で過去記事に見ることができます。)
2019年はこれら前年に設置したネットを拡張したり、新たに追加した、ということになります。
2018年は岩手県、森林管理局とも設置時期がかなり遅く、その効果は限定的なものでした。
そこで2019年は雪解けと同時に柵が設置されることを望んでいましたが、何かわからない様々な事情があったらしく、結局シカの侵入と植物の成長が進んでからとなりました。
ここでは早池峰山南面の柵に限って見てみたいと思います。
6月26日 東北森林管理局岩手南部森林管理署遠野支署、頭垢離に柵を拡張設置。50m→150m
(遠野支署はもう一箇所50m、2018年に設置した柵を2019年も再設置しています)

2019年8月12日撮影
河原の坊コースで最も標高が低い高山植物群落を大きく囲うことができました。ただしもう少し早く設置できればよかったです。ここは早池峰山で最も早く花が開く群落なのです。また、期間中に一部ネットに緩みや隙間が見られました。

6月9日には下ろしたままのネットの内側にシカが来ていました。

8月12日 ネットにやや緩みや隙間ができていました。設置後も時々メンテナンスが必要ということですね。
7月11日 東北森林管理局三陸北部森林管理署、小田越コース東側草原に150mの柵を設置。
この草原は2018年秋に岩手県立博物館の植物専門学芸員によって発見されました。その時すでにシカの糞や足跡、食痕など痕跡が濃く、植物の矮化も見られました。高山帯にありながら登山道からは見えないためシカの生息密度が高いことが推測され、ここを囲うことは今年度の核心事業のはずでした。が、柵の量が足りなかったのか草原全体を閉じて囲われなかったため、柵設置後もシカが高密度で侵入するという残念な結果になりました。

柵設置後の7月14日にも多くのシカが来ていた。写真提供:岩手県立博物館・鈴木まほろ氏

同上 7月14日でもまだ袋角なんですね。

柵の脇に隙間が。2019年8月14日

というか、途中までしかないんですよね。 2019年8月14日

糞も普通に落ちていました。 2019年8月14日

繰り返し食べられて小さくなったナンブトウウチソウ(早池峰山固有種)。2019年8月14日
7月21日 岩手県自然保護課、河原坊コースに昨年設置した柵のネットを張る。
シーズンの当初(5月〜)、県は前年度に設置した三箇所計100mのうちの二箇所は柵を撤去して別の場所に移動することにしていたため、支柱だけが立った状態でしばらくネットを張りませんでした。しかしその後方針が変わり前年度の柵を再び使うことになり、7月21日になりネットを張りました。その時にはシカの食害はかなり進んでいました。また、張り方が緩く、張った後もシカがネット越しに植物を食べているところが自動撮影カメラに写っていました。
この県の柵の一箇所のすぐ隣には森林管理局が設置した柵があり、そちらは6月にネットを張ったため、後日、柵の中の被食度合いの違いがよく分かりましたね。
7月22日 岩手県自然保護課 小田越コース樹林帯・二合目東側・薬師岳登山道に新たに柵を設置。合計300m。

小田越樹林帯での柵設置作業。主にオサバグサの群落を保護します。
作業は岩手県職員、グリーンボランティア、自然公園保護管理員などで行ないました。

完成したところ。

続いて二合目へ。

柵を設置しました。ここにはナンブトウウチソウなどが生育しています。

薬師岳樹林帯の柵。ここもオサバグサが主対象です。
2019年、岩手県自然保護課が初めて予算をとって防鹿柵を設置したことは評価できます (2018年の岩手県による防鹿柵設置はお茶の伊藤園の寄付で柵を購入したものでした)。しかしやはり設置時期が遅すぎました。シカは5月2日には早池峰山の小田越樹林帯で目撃され、二合目東側地点の雪は6月2日には完全になくなっていました。7月22日までにのべ何頭のシカがここに侵入したでしょう。
ちなみに、岩手県が2018年に設置しそのまま撤去せずに冬を越した一箇所の柵。2019年もそのまま設置を続けました。
ここではオミナエシ科のマルバキンレイカがシカの食害を受け2016年にはすっかり咲かなくなっていたのですが、2018年から柵を設置し続けたところ、2019年には一株が開花し、種を実らせました。柵の効果があったのです。いっぽう柵の外では引き続きシカの食害が続いています。

6月11日には仔鹿が写っていました。

8月12日には4年ぶりにマルバキンレイカ一株が開花。

8月26日にもシカが来ていましたが、マルバキンレイカには届きません。

そして結実。よかった。しかしまだ花の咲かない株もあるのです。2019年8月30日
防鹿柵は、積雪期の損傷を避けるため、ネットを下ろすか、支柱も外す形で撤去されました。
10月23日 三陸北部森林管理署 防鹿柵撤去
10月23日 自然保護課 防鹿柵撤去(一箇所を除く)
10月31日 岩手南部森林管理署 防鹿柵撤去
今年はぜひ雪解けと同時に再設置をして欲しいものです。
さて、県と国の事業にあれこれとケチをつけてきましたが、それはこれらの事業が税金で行われているからです。せっかく岩手県、日本、そして世界の宝である早池峰山のシカ対策を県民・国民の税金でやるからには効果的に行われなければなりません。
記事のはじめにも書きましたが、早池峰山のシカ対策事業はこの柵だけではありません。調査や捕獲も行なわれています。
広く一般に周知されているとは言えませんが、事業の概要は、岩手県のウェブサイトで見ることができます。早池峰地域保全対策事業推進協議会の会議資料として公開されているものです。興味のある方はご覧ください。
早池峰地域保全対策事業推進協議会H30会議資料
(シカ対策については25ページから50ページまで)
早池峰地域保全対策推進協議会・平成23年以降の会議録と結果
この協議会は毎年1回開かれていて、今年度の協議会は3月10日(火)。今年度に行われた早池峰山での保全対策がシカに限らず報告されます。話し合うのは委員ですが、傍聴は可能です。直前になってしまいましたが、興味のある方は聞きに行ってみてはいかがでしょうか。
早池峰地域保全対策事業推進協議会
協議会では2020年の保全対策事業についても話し合われることと思います。
シカについて言えば、昨シーズンは侵入頭数が大幅に増加している感じはなかったのですが、前年にある種の植物を食べ尽くしたら今年はまた別の…というように段々に麓で見られる植物の種数が減ってきています。
このあたりのことは、データとともに報告されることと思います。

2019年の小田越樹林帯でのトレンドはカニコウモリでした。今年は姿を消すでしょう。
そして8月〜9月に発生したハヤチネウスユキソウとナンブトウウチソウの大量喪失事件。
原因は分かっていませんが今年どうなるのか、出来るだけ対策は講じておかなければならないと思います。
つまり、
①シカを防ぐような柵で囲う
②ネズミも防げる柵で囲う
③何もしない
の三通りの場所を設けてそれぞれにセンサーカメラで監視。
といった具合に。
協議会でそういう話すんのかなー?
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