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今期のNHK朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルとなり、何かと話題に事欠かない牧野富太郎ですが、早池峰山の植物にも大いに関わりがあります。

現在知られている早池峰山の植物の多くを最初に世に知らしめたのは、「らんまん」にも登場したロシアの植物学者マキシモヴィッチでした。とは言え、マキシモヴィッチ本人は早池峰山には登っておらず、紫波出身の須川長之助が採集した標本を元にロシアで発表していました。
牧野富太郎は、主にマキシモヴィッチが発表した植物に和名をつけるという形で早池峰山の植物研究史に登場します。また、陸前高田出身の鳥羽源蔵など複数の人が早池峰山で採集し牧野に送った標本を元に牧野が公に発表したものもあります。
そして牧野自身は1905年8月に早池峰山を訪れ植物採集を行い、カトウハコベを発見しています。牧野が早池峰山で新たに発見したのはこのカトウハコベだけです。

さて、早池峰山でよく知られているこちらの花。


2023年6月7日撮影

Primula macrocarpa Maxim.
須川長之助が「北日本の甚だ高い山」で採集したと思われる標本に基づき、マキシモヴィッチが1868年に発表しました。
この植物に1897年、和名を「ヒメコザクラ」と命名したのは牧野富太郎です。

雪解け後の早池峰山にミヤマキンバイと並び最も早く開く花の一つで、5月〜6月にかけて高山帯のあちこちで目を楽しませてくれるサクラソウの一種です。
のちに岩手県大東町の蛇紋岩地で発見されたことになっています(その標本はどこかにあるのでしょうか?)が、その後その場所では盗掘などで絶滅したと言われ、現在では早池峰山でしか見られない貴重な花です。環境省のレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類、いわてレッドデータブックではAランクに指定されています。



こちらは早池峰山の他の場所では花期を過ぎた中で、山頂直下に6月中旬まで雪が残るために7月に唯一開花が見られるヒメコザクラの株でした。
この数年でだんだん株数が増えてきたところでした。


2019年


2021年


2023年7月2日

なぜ過去形かと言うと、この株はおそらく盗掘により、失われてしまったからです。


2023年7月11日

この山頂直下の株は7月4日の午前中のごくわずかな時間に根ごと持ち去られたとみられています。
7月4日午前9時頃にこの一塊りの株が、すでに花が終わっているのを巡回中の自然公園保護管理員が確認しています。その数時間後にグリーンボランティアの方が、株ごとなくなっているのを見つけました。

山頂直下のヒメコザクラはここにしかないので長年早池峰に通っている人は毎年見ていました。
しかし、人の手により永久に失われてしまいました。残念です。

牧野富太郎はじめ多くの人によってその希少性を認められてきた早池峰山の植物は、現在何重もの法規制によって守られています。学術目的等で採取する場合には岩手県知事や文化庁長官の許可を得る必要があります。
2023年7月の時点で、早池峰山頂直下でヒメコザクラを根ごと採取できる許可は誰にも出ていません。つまりその行為は違法です。
早池峰山でヒメコザクラを盗掘した行為者は、自然公園法違反により6月以下の懲役または50万円以下の罰金、文化財保護法違反では50万円以下の罰金に処されます。また、岩手県希少野生動植物の保護に関する条例違反で、最高で1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。

すでに失われてしまった以上、盗人に何を言っても無駄なことでしょう。


牧野富太郎が早池峰山で1905年に発見し、その採集行のスポンサーであった加藤泰秋子爵の名を取って命名したカトウハコベ(詳しくは、ほしがらす通信2011年7月21日「人名を冠した花」を参照)も、2020年に盗掘された疑惑が持たれています。


2020年


2021年

石の上のわずかな土壌に根を張ったカトウハコベが、剥がされたようになくなっており、2020年にあった部分が、2021年には半分ほどの面積になっています。落石や強風で失われるような環境ではありません。
こちらも、足繁く早池峰に通われている方から2020年の秋に盗られたようだと情報提供を受けたものでした。
早池峰山では多くの愛好家が毎年、毎月、毎週、花を見て歩いています。盗掘現場を見られなくても、花が無くなったことにはすぐ気づきます。


近年、早池峰山の希少植物の情報流出については、登山SNSの登場が新たな懸念となっていました。
メジャーな登山SNSの一つのYAMAPでは、多くの人が高山植物の写真を投稿しています。そのほとんどに位置情報が付され、撮影場所をその人のマップ上で見られるようになっています。YAMAPでは、希少な高山植物の写真の投稿を禁止していますが、多くの人はそのことを知らないのではないでしょうか。中にはGPS情報を削除して写真を投稿している登山者もいますが、投稿の時系列などからだいたいの撮影場所が推測できます。
誰もが、山で出会った綺麗な花の写真を投稿して他者の共感を得たいでしょう。しかしそれにより、希少な野生植物の位置情報を悪意のある人物に提供してしまう可能性があります。
現に、悪意があるかどうかは別として、スマホの画面を見ながらうろうろと植物を探す様子の登山者をここ数年見かけるようになっています。
匿名で投稿でき誰もが見られるSNSへの高山植物の位置情報の投稿はやめて欲しいと思っています。
SNSの管理者も、投稿者に禁止行為をやめるよう、もっと積極的に促して欲しいと思います。

(注:このブログはいったい何人が読んでいるのかわかりませんが、希少性の高い植物については以前から載せていません)

牧野富太郎ゆかりの植物については、また機会を改めて紹介します(たぶん)。
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