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毎月末の投稿である。夏休みの最終日に宿題をする子供のようだ。

この冬は寒く、雪も多かった。今はまだこれが本当に全部水になるのかと思うが、あと三ヶ月もすれば山の雪も融けて草が芽を出す。雪が融けるのと同時に山に上がって来るのがニホンジカである。去年の勢いを考えると今年はさらに早くから、速いスピードと量で、早池峰山に迫ることは間違いない。
ドカ雪が降るとシカは死んでしまうと言われているが、麓のササの食われようを見るとそんなに楽観は出来ない。近年岩手県内では年間1万頭のシカを捕獲(駆除)しているが、早池峰山周辺では減るどころか増えている。捕獲数を出生数が上回っているのだろう。


雪から出たササの葉を食べ尽くす  県道25号沿いの大又地区で 2018年2月16日

2016年から2017年にかけて、早池峰山南面の標高1000mから1300m付近にかけてシカによる植物の被食が爆発的に増えた。今年は河原の坊コースの頭垢離(標高1377m)にある高山植物の群落に必ずシカの群が到達すると私はみている。雪が融けると同時に希少植物の群落に柵を設置してシカによる被食を防ぐ必要があると、折に触れ岩手県自然保護課に訴えているが反応は鈍い。この2年の急激な変化を見ていないからだ。県自然保護課の自然公園担当の職員は昨年4月に全員が異動で入れ替わった。こうした人事異動があると継続的な仕事を期待するのは難しい。

そもそも日本では環境保護行政が弱い。岩手県自然保護課も両手で足りるほどの人員で北海道の次に広い県土を担当しているので、早池峰山に回って来るのは年に1、2回になってしまう。行政の中で自然環境の保全や保護が優先順位の低いものになっているのだから、当然、環境の状態がどのようなものであるか観察することには注意も予算も払われない。それは国から県、市町村まで同じである。


そんな中で今日は花巻市の取り組みを少し評価してみたい。現在、花巻市では第2次環境基本計画というものに沿って、市内の生き物に関するアンケート調査を行っている。アンケートに答えているのは市内の環境関連団体や環境マイスターを委嘱された個人である。このアンケートはどういうものかというと、花巻市内の動植物の過去3年以内の生息状況を指定のリストに従ってチェックするというものだ。リストは県南広域振興局花巻総合支局保健福祉環境部(長い…)が2007年に発行した『花巻の大切にしたい生きもの』が指定した、植物254種、動物173種である(記事の最後のリンク先参照)。

花巻市では平成19年度に初めて環境基本計画を策定し、その施策の中の「生物多様性の保全」において、この「花巻の大切にしたい生き物=植物254種・動物173種」を成果指標に設定していた。ところが、この環境基本計画は策定されただけで成果指標の達成はチェックされず年月が経ち、そのうち東日本大震災が起きてうやむやになってしまっていた。そして計画の期間は平成27年度までだったために、28年度を目指して新たに第2次環境基本計画が策定された。

筆者はその第2次環境基本計画の策定に花巻市の環境審議会委員として関わることになり、前計画期間中には全くされることなく終わった生物種の調査を施策として盛り込むよう働きかけた。3年前のミサゴ騒動(ブログ内記事参照→「亀ヶ森のミサゴと産廃処分場」)から、地域の生物情報を把握しておくことの大切さを痛感していたからである。結果、「各種団体の調査データ等を活用することにより、現状の把握に努め、生物多様性の保全に役立てます」という文言が施策に入ったが、市内の生物種の調査は成果指標としては盛り込まれなかった。要するに環境調査を実施するだけのお金はないので、各種団体にアンケート調査をするだけ、それも振り返りの義務はないことに止まったのである。

その第2次の計画期間の初年度である平成28年度。「各種団体の調査データを活用する」アンケートでは、「文献で確認した種を除外した植物10種、動物11種」についてのみ調査したという。その文献とは何かを審議会で訊ねてみると、平成26年に改定された『岩手レッドデータブック』だという。つまり『花巻の大切にしたい生きもの』が指定した、植物254種、動物173種のうち、『岩手レッドデータブック』で花巻市が生息域になっているものについては「いるんだな」ということで除外したというのである。その残りが植物10種、動物11種。それをアンケート調査しました。しかし、平成26年に出たということは、その元になっているのは平成25年までのデータであろう。それも執筆者がいつどのように花巻市内での生息を調べたのかはわからない。それってどうなの。ということで、29年度には植物254種、動物173種全てについてアンケート調査を実施することにしてもらった。それがこの2月中までに行われていたのである。

前計画の8年間、アンケート調査すらまったく行われていなかったことを思えば、花巻市生活環境課がこの調査を実施したことをまずは評価したい。筆者も環境マイスターになっているのでアンケートに答えたが、これは意外とよい取り組みだと思った。要するにリストにある生物を最近3年間に見たかどうかということなのだが、意外と3年は早い。あそこに行けばある、いると知っていても、見ないうちに3年くらい過ぎてしまっているものがいくつかあった。早池峰山でオコジョ(花巻・HAランク、岩手・Bランク、環境省・準絶滅危惧)を、私はこの3年見ていない。また、植物や昆虫、魚類などについては知らない種の方が多かった。これは今までより気をつけて見なければという気にさせられ、自分に対してはいい効果だと思った次第である。

次はこのアンケート調査の結果どうするかである。植物254種、動物173種のうちアンケート回答者の誰も過去3年間に確認できなかった種があった場合にどうするか。『花巻の大切にしたい生きもの』または『岩手レッドデータブック』の執筆陣に、その生物種を花巻市内のどこでいつ確認したかを聞き取り調査し、現状を確認しに行かなければなるまい。楽しみですねえ。

こうした生物の生態調査を、例えば花巻市の全域でプロに頼んで行なうにはかなりの費用がかかる。地域の環境を観察している団体や市民に報告してもらうのはその点で理にかなっているし、花巻市民でもない他所のプロに頼むよりも市民がそれぞれの居住地域の生物情報を把握している方が良い。理想的にはできるだけ多くの市民が参加して市内全域を網羅した「生きもの調べ」をするのが望ましい。そのことで地域の価値の再発見にもなるし地域に愛着もわくだろう。しかしそうした知識・情報を持つ団体(野鳥の会など)や個人は現状ではそれほど多くないのではないかと思う。首都圏であれば一つの市内にはバードウオッチャーや植物マニアはある程度の人数がいるであろうが、花巻市民9万6千人のうちどのくらいいるだろう。そして人口はどんどん減少していく。いま現在の地域の生物情報を蓄えた人材も、10年後にはどうなっているだろう。地域の生物情報という知的財産は、蓄積し常にアップデートするのには多大な時間と労力がかかる一方で、失われるのはおそらくあっという間だ。今からでもこまめな情報収集と公的な(=継続性が保たれる)組織によるデータベース化、若者や子供を巻き込んだ人材育成が急がれる。

ほしがらす通信・主筆(しかいない) 八重樫理彦


『花巻の大切にしたい生きもの』植物254種、動物173種のリスト(資料中p.11〜p.18)
https://www.city.hanamaki.iwate.jp/shimin/158/166/p002721_d/fil/1206597584879.pdf

花巻市環境計画(平成20年〜平成27年。宮沢賢治の思想や地球サミットに言及するなど意識高い感じに作られたが絵に描いた餅に終わった)
https://www.city.hanamaki.iwate.jp/shimin/158/166/p005535_d/fil/1206597584785.pdf

花巻市第2次環境基本計画(平成28年からの現行計画)
https://www.city.hanamaki.iwate.jp/shimin/158/166/p005535_d/fil/2keikaku.pdf



クマタカ(「花巻の大切にしたい生き物」HAランク、岩手・Aランク、環境省・絶滅危惧ⅠB類)
成鳥 大迫町内川目 2018.1.15
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