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2017年10月18日 河原の坊より

早池峰山周辺の紅葉はすでに河原の坊より下流の魚止めの滝あたりまで下がっています。山はすでに何度か冠雪しています。
河原の坊の総合休憩所(ビジターセンター)は10月20日で閉館し駐車場のトイレも閉まりますので、以後はトイレは裏手の冬季用トイレをご利用ください。小田越登山口に至る県道25号は11月8日(水)の午前11時に花巻市側の岳と宮古市側のタイマグラでゲートが閉まり冬季通行止め期間に入る予定とのことですが、小田越に雪が積もれば通行止めが早まることもあります。天気情報に注意してお出かけ下さい。


さて、シカの話です。早池峰山周辺では近年ニホンジカ(以下、「シカ」は全て「ニホンジカ」を指す)が増えていることは度々書いてきましたが、ふたたびここで話題にするのはシカによってもたらされている変化が急激で劇的なものだからです。
今年、河原の坊の周辺では何種類かの植物がほとんど見られなくなりました。具体的にはオニシモツケ、ヨツバヒヨドリ、クガイソウ、マルバキンレイカなどです。去年まではこのあたりで普通に見られたものでしたが、今年は明らかにニホンジカの採食によって個体数を著しく減少させました。今、河原の坊登山口周辺ではヨモギやノコンギク、トリカブトなどシカが食べない草ばかりが目立つようになっています。(以下、写真は全て2017年)


オニシモツケが姿を消しヨモギが目立つ河原の坊駐車場周り(9月20日)


ノコンギクも目立つ(9月27日)

また、河原の坊登山口周辺だけでなく河原の坊コース登山道や小田越コースの登山道、はては早池峰山頂付近でもシカの食痕が明らかに増え、早池峰山の固有種である植物にも食痕が認められました。


7月1日の記事「早池峰山麓のシカ」で報告した、河原の坊登山口近くのクガイソウですが、食べられては葉を出し、また食べられてを繰り返してついに花は咲きませんでした。来年には絶えるでしょう。(8月30日 標高1100m付近)


懸案のマルバキンレイカは、去年首が届かないから食べないのだなと思っていた場所も食べられてほぼ消滅しました。(9月15日 河原の坊登山口近く・標高1120m付近)


閉鎖中の河原の坊コース登山道では、早池峰山の固有種であるナンブトウウチソウに食痕が増えました。近縁種のシロバナトウウチソウは去年からよく食べていましたが、やはりナンブトウウチソウも食べるようです。(9月4日 御神坂・標高1430m付近)


同上


さらに、固有種のミヤマヤマブキショウマも食べていましたし、(9月4日 御神坂・標高1530m付近)


また固有種の一つであるナンブトラノオも食べられていました。(9月4日 千丈ヶ岩上方・標高1800m付近)


同上


今のところ早池峰山のシンボル的な固有種、ハヤチネウスユキソウにはそれらしい食痕を見つけていません。同じキク科のヤマハハコは好まないのかあまり食べていません。(9月27日)


しかし全く食べないというわけでもありません。シカはとりあえず何でも食べます。有毒のトリカブトにも、好まないらしいヨモギにも食痕はあります。今以上にシカの個体数が増えて標高の高いところに侵入してくればハヤチネウスユキソウも必ず食べるでしょう。(同上)


標高の高いところといえば、夏には山頂直下のお花畑にセリ科の植物を派手に食べたあとがありました。(9月4日)


そしてその足元のコバイケイソウ(有毒)を踏み荒らしていました。(同上)

これらはおそらく山頂付近まで森林の続く、北側の門馬コース側から侵入したシカによるものと思われます。ニホンジカは岩場歩きをあまり好まないからです。ただこれも憶測なので本当の侵入経路はわかりません。

7月の記事にも書きましたが、今年の特徴は食べられた植物の量と種類と生育面積が拡大した中で、「草」だけでなく「木」で食痕が大幅に増えたことです。タニウツギ、ヤナギ属、カエデ属、タモ、ナナカマド、ブナなど…数え上げればきりがありません。


このコシアブラは繰り返し食べられているのでしょう。秋になったのに、こんなに小さな若葉を出しています。(9月20日)


県道25号の河原の坊〜小田越間ではシカの首が届くあたりまでの高さの草や木の枝はきれいに刈られたようになくなっています。(9月4日)


ミネカエデが紅葉した時、その高さにはもう葉はありませんでした。(10月3日)


県道脇の林内に入って道路側を見るとスカスカで丸見えです。以前はこのようなことはありませんでした。(9月7日)


悲しきイタドリ。(9月25日)


県道沿いの状況は、花巻側だけでなく小田越の反対側、宮古側でも似たようなものです。(9月29日)


このまま人間が何もしなければ、来年にはこの辺りの植生はさらに変わってしまうでしょう。おそらく河原の坊コースでは頭垢離(標高1377m)付近まで侵入するシカが増加し、南斜面のお花畑の植物を食べるでしょう。そこには今年食べられていたナンブトウウチソウやミヤマヤマブキショウマ、ナンブトラノオだけでなくハヤチネウスユキソウやヒメコザクラ、チングルマなど様々ないわゆる希少種や高山植物が生えています。小田越コースでも一合目までの樹林帯での採食が拡大するでしょう。また登山道の外でも岩場でない限りさらに侵入が拡大するでしょう。

さて、この記事の中ではこれまで、「食害」とか「被害」という言葉をあえて使ってきませんでした。この地域でニホンジカの個体数が増加し生息範囲が広がり、被食される植物が増えている、という現象は「害」でしょうか?それは、人間が「価値が損なわれた」と捉えた時に初めて「害」になります。農作物被害のように。早池峰山の植物をシカが食べているのは「害」でしょうか? 個人的には、植生が変わりつつある現在の環境は私の眼には「荒廃」に映り、残念に感じます。高山植物が消滅すればさらに残念に思うでしょう。

今のところ、公園管理者の岩手県や国有林の管理者の森林管理署、環境省などはこの「変化」をそれほど「害」だと考えていないのではないでしょうか。早池峰国定公園(県)や早池峰山周辺森林生態系保護地域(森林管理署)、自然環境保全地域(環境省)などの指定の「価値」の源である、固有種や希少植物への食「害」の報告がまだ届いていないのかもしれません。フキやヤグルマソウ、オニシモツケでは「害」にならないのです。だからほとんど何の対策も取られていないのでしょう。そうでなければとっくに何か手を打っているはずです。シカの生息調査だけはもう何年も前からしているのですから。
(実際は、2012年にすでに東北森林管理局の調査でナンブトウウチソウに食痕が記録されている。>早池峰山周辺のニホンジカの生息状況

今年に至る、早池峰山麓でのニホンジカ増加は2012年ごろから激化しました。>「ほしがらす通信・2013/9/28・早池峰山のシカ問題」 改めて「早池峰山 シカ」で検索してみると、2013年ごろに多くの記事がヒットします。それから5年あまりの間、ハンターによる主に冬場の山麓地域での駆除以外、実際にはほとんど何のシカ対策も取られて来なかったように思われます。個体数管理、つまりハンターによる駆除は残念ながら目立った成果を上げていません。シカの増加数がハンターによる捕獲数を上回っているのだと、当のハンターさんが話していました。
このまま何もせずに来春を迎えれば、必ず希少種への食「害」が拡大します。その時になって会議を開いても手遅れでしょう。特定の植物に「価値」を認めるのであれば、それを守る行動を取るべきではないでしょうか?高山植物を人間が盗掘するのを防ぐために監視員を置いているように(ところで三陸北部森林管理署では今年、去年まで置いていた早池峰山周辺森林生態系保護地域の巡視員をゼロにしましたが、これは全く不適切でした)。

シカを防ぐには何が有効なのでしょうか。これまでに、岩手県以南・関東以西の地域ではとっくにニホンジカによる食害は進んでいて、対策の知見も蓄積しているはずです。例えば防鹿柵は?早池峰山域のシカは冬に一旦積雪の少ない山麓地域に移動します。春、雪解けの時期に再びそれらのシカを侵入させないことが最も重要な対策になるはずです。ハンターによる狩猟圧も、まとまった予算を投入して集中させる必要があるのでは。「価値」があるのなら、対策を取らなければ。さもないと本当に早池峰山はハゲ山になります。関係者の皆さんが決断すべき時です。もう手をこまぬいている時間はありません。



最近、河原の坊あたりで毎日鳴いてるのはこれか。秋の鹿が黒いのはヌタ場で泥を体になすりつけるからだそうな。オスのアピール期間ですな。(10月2日 マルバキンレイカのあった場所で)



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