ちょうど紅葉の季節となる今頃、早池峰山の河原の坊、小田越の登山口のあたりではニホンジカのオスの鳴き声がよく聞こえます。日が西に傾いて木々の影が長くなる夕方、高く長く尾を引く声は「奥山に...」の和歌にあるように物悲しく響きます。

シカし、早池峰山麓にニホンジカ(以下シカ)が現れ始めたのは、大昔のことは分かりませんが10年は下らない最近のことのようです。岩手では、明治から昭和にかけての乱獲によってニホンジカはほとんど絶滅に追い込まれ、大船渡の五葉山地域にしか生息しなくなっていたのです。それが保護政策によって順調に繁殖し、今や岩手県全域に広がろうとしています。米や野菜などへの農産物被害もかなり出ています。

河原の坊のあたりでは6、7年前にはもう鳴き声は聞こえていましたし、山荘の裏あたりにはシカ道やフンも見られました(シカは夜間に行動するので姿はほとんど見られません)から、その頃にはもう早池峰山麓には来ていました。ところが、3年ほど前から山麓の広葉樹林帯ではなく頂上稜線や小田越コース九合目、八合目といった亜高山帯での目撃情報が出始めました。昨年度までに東北森林管理局が実施した調査では、早池峰の固有種であるナンブトウウチソウにシカの食痕が認められたとの報道がありました。ここに至って、早池峰山でも日本の他の山のように、高山植物の食害への懸念が出始めたのです。

そして今年。明らかな変化が、見え始めました。



6月、雪がとけてフキノトウがすっかり立ってフキの葉が広がる頃、おかしな現象が小田越から河原の坊、岳地域までの県道沿いのあちこちで見られました。



フキの葉が、茎で切断されて道に落ちているのですが、山菜採りの人間が採ったにしては茎が残っていたり、切り口も汚いし、草刈にしてはずいぶん気まぐれな感じです。何だろう...と思っていたところへ知り合いのハンターさんが山へ来たので話してみると、それはシカの食痕だと教えてくれました(後で野生動物痕跡学の本でも確認しました)。今年の春、県道25号沿いに見られたこれらの食痕は、正確に数えてはいませんが小田越~岳の間に十か所以上で見られました。去年までは見られなかった現象で、今年、明らかに何かが変わったと感じた瞬間でした。シカは爆発的に増えているのではないか...?

兆候は5月に山菜採りで岳川沿いの広葉樹林内を歩いた時にも目にしていました。明らかに、以前よりシカ道がはっきりとつき、また笹を食い荒らした痕が目立っていたのです。


シカ道


足跡


フン


皮はぎ


ササの食痕

思い起こせば、冬の間に歩いた鶏頭山周辺でも、去年辺りから笹の食痕が目立ってきていました。


2013年3月


2013年3月


2013年3月

雪の上に顔を出した笹をことごとく食べています。標高500mから800mくらいの、カラマツやスギの人工林の林床です。これらの現象も、2012年の春あたりから目立ってきたように思います。

今夏は、河原の坊コースの周辺でもシカかと思われる食痕が見られました。


オオバギボウシ 2013年7月 河原の坊コース 標高1400m付近


アザミ 2013年8月 河原の坊コース 標高1400m付近

シカはこのまま増え続けて、早池峰の貴重な高山植物をもむしゃむしゃと食べてしまうのでしょうか。

他の日本の山でのシカ食害問題と同様に、当地域でもハンターの減少により狩猟による野生獣の頭数管理は難しい状況です。加えて、東電福島第一原発事故由来の放射性物質により、シカの食肉利用は今後しばらく期待できません。


宮古市旧川井村地区内でハンターさんが獲ったシカ肉の検査結果。


こういったことがおそらく話題になると思われますが、近く、早池峰山域でのシカ問題に関する講演会が遠野市で開かれます。興味のある方は足を運んでみてはいかがでしょうか。

講演会「早池峰山の高山植物をニホンジカの被害から守るために」
2013年10月5日(土)13:00~16:00 あえりあ遠野(遠野市民センター)中ホール 
主催:日本勤労者山岳連盟自然保護委員会

くわしくはチラシをどうぞ。

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2013年9月 河原の坊付近で


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