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あっというまに11月になってしまいました。

早池峰山は今年も岩手山の初冠雪と同じ10月17日には白くなっていました(気象台から目視できないため初冠雪という記録はなし)。
その後いったん雪は消え、25日からはまとまって雪が付き、27日にはよく晴れて遠くからもよく見えるようになりました。


2020年10月27日

小田越登山口・河原の坊駐車場に通じる県道25号は、11月11日午前11時から来年5月までの冬季通行止めに入ります。
その前に駆け込みで登山を考えている方は、もう駆け込まないで来春をお待ちください。明日から冬型が強まり北日本はだいぶ冷え込みます。

紅葉はもう里でも終わりを迎えようとしています。
今年、山(ここでは早池峰山登山道〜標高1000m付近まで)の紅葉はあまり綺麗ではありませんでした。紅葉の始まりは遅く、まとまりもなかったし、葉には茶色い斑点が入るなど見栄えが悪かったです。ただ、そのあと下の方ではわりあい綺麗になっていきました。
先月ポツリポツリと撮った紅葉を紹介します。


10月9日、小田越から河原坊への県道から。ミネカエデが染まっていてもダケカンバはまだなのでバラバラしています。


10月12日、やはり小田越に近い県道沿いで。ガスってます。


10月13日、うすゆき山荘で。


10月20日、河原坊で。これは紅葉というよりは夕日の色です。


さて…このあとは植物と動物に少しでも興味のある方はお読み下さい。興味のない方には退屈かもしれませんので。
すっかり時間が経ってしまいましたが、前回のナンブトウウチソウの続きです。
9月29日に、一合目でまだ程よく咲いていたナンブトウウチソウの株ですが、10月9日にもう一度確認すると、何割かの花穂が無くなっていました。


9月29日


10月9日、同じ場所。


花茎の先の方で無くなっているものはネズミが原因でしょうか。
ナンブトウウチソウの種子の状態から見ると、やはり花の盛りが少し過ぎて、しかし枯れすぎない時期に種子を食べに来ているようです。

枯れたナンブトウウチソウは種子だけが茎から外れて落ちたり、花穂ごと折れて下に落ちます。

種子が落ちた花穂。


さらに落ちるとこんなになります。


落ちた種子(左)と、花序ごと切れて落ちたもの。

これがナンブトウウチソウにとって通常の種子散布の形でしょう。
ここまで枯れないうちに花穂がなくなったものは、まれに強風によることもありますが、動物(ヒト含む)が原因と思われます。


花茎の中ほどから切れているものはシカかカモシカによるものと思われます。


実際、すぐそばにシカまたはカモシカの足跡がありました。一つは幼獣です。
この夏、小田越コース登山道周辺でカモシカの親子の姿がよく見られました。その親子のものかもしれません。(カモシカの親子は去年も見られ、NHK「さわやか自然百景」に撮影されました)

昨年のナンブトウウチソウの被害について、岩手県立博物館専門学芸員の鈴木まほろさんは、ネズミによるものとの報告をしています。

鈴木まほろ「早池峰山固有種ナンブトウウチソウの花序を食害するネズミ」

その中で、昨年の大規模な食害をハイマツ球果の不作と結びつける仮説を示しています。ネズミがハイマツの実を食べることは他の山で記録があるそうです。

一方、今年はハイマツはそれほど不作ではありませんでしたが、ナンブトウウチソウに一定程度の食痕は認められました。
私は、過去に早池峰山でのネズミに関する研究がないものかと、『平成12年度 早池峰地域自然環境調査報告書』を見てみました。すると、興味深い記述が見つかりました。

「ヒメネズミとアカネズミでは前者が低山帯から高山帯までの鬱閉した森林に生息するのに対し、後者が低山帯の開けた林を好むという。注目されるのは、亜高山帯や高山帯においても、道路工事等で森林を伐採した結果、開けた場所ができるとアカネズミが侵入してくるという事実である。」(時田・横山・向山. 2001. pp.290-291)
そして、
「鬱閉した森林を好むヒメネズミと、低山帯の明るい疎林を好むアカネズミの分布を調べてみると、ヒメネズミは低山帯から亜高山帯にまで広く分布しているが、アカネズミは低山帯を脱し、亜高山帯、特に登山者が多く道路も整備されている小田越コースの森林にまで進出していることが分かった。また、このアカネズミの進出傾向は、近年とみに激しくなっているのではないかということが、約20年前に同地を調査した関山の報告(1982)との比較検討から推察された。」(同、p.292)

(時田克夫・横山恵一・向山満. 6−1 哺乳類. 岩手県生活環境部/社団法人 東北地域環境計画研究会. 平成12年度 早池峰地域自然環境調査報告書. 2001, pp.290-292)

これを読んで私が思ったことは、近年のニホンジカの侵入によって、河原坊や小田越コース登山道の東側の沢などでシカの食害が進み、明るく開けた場所が増え、その結果アカネズミが増えているのではないか?ということです。もしシカの侵入によってアカネズミの個体数が増え、風が吹けば桶屋は儲かり、ナンブトウウチソウの食害が増えたのであれば、シカの侵入が続く限りこの事態は今後も続くのではないでしょうか。
ふわぁーい。誰か調べて下さいな。私にはお金がない。調査にはお金と権威、つまりお金が必要なのです。

先ほど書いたカモシカの出没にしても、ニホンジカの侵入によってカモシカが追いやられ登山道付近での出現と食餌が増えているのカモシれません。
近年の早池峰山での一番大きな環境の変化はニホンジカの侵入です。その影響の可能性については過小評価しない方がいいでしょう。
今年、早池峰山で行われたシカ対策についてはまた改めて記事にしたいと思います。


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早池峰山では紅葉が見頃を迎えていますが、そういった情報は昨今みなヤマレコとかYAMAPなどの登山SNSでリアルタイムに得られると思いますのでそちらをどうぞ。

さて前回、今年はナンブトウウチソウにも目立った食害はないと書きましたが、その後状況に変化がありました。

9月29日に小田越コース一合目付近のナンブトウウチソウ群落を観察したところ、去年と同様かやや少ない程度で、ナンブトウウチソウの花が無くなっていました。
(以下、写真は記載のあるもの以外は2020年9月29日、早池峰山小田越コース一合目付近)


何本かの花穂が、花茎の途中から無くなっています。


少し分かりにくいですが、上の写真と同じ株の、9月7日の状態です。











手前左と中央は茎から切断されており、右は種子だけが無くなっています。
つまり…普通は右のように種子だけが落ちて茎は残るはずなのです。

昨年はセンサーカメラにナンブトウウチソウの花茎に登るネズミが写り、有力な犯人像と思われました。

今年は私が観察した限り、9月7日と9月29日の間に花穂が失われたことになりますが、その間のいつ、花(果実)がどんな状態の時に取られたのかが気になります。
未熟な果実の場合と熟した種子の場合では、原因動物にとってもナンブトウウチソウにとっても意味合いが異なると思われるからです。

動物にとって、未熟な実は生食するのに魅力的な食物であり、熟して乾燥した実は貯蔵用になります。
また、ナンブトウウチソウにとっては、未熟なまま食べられれば単なる被害ですが、もし完熟して発芽可能な状態の種子を貯蔵されるのであれば、それは種子散布の一形態と言えます。動物の食べ残しや糞から発芽して子孫を増やすことができるかもしれません。
ただ、見たところナンブトウウチソウは、普通は振動や雨などで自然に種子が落下して散布されるようなので、もともと動物散布を選んでいるようには見えません。原因動物がどの状態の実を取っているのかも明らかになっていません。花の状態を毎日観察してセンサーカメラで24時間監視すればすこしは謎に近づけるでしょうか。

(あれ?去年のふわふわお布団説は…?)



ふわふわ巣材説のためには原因動物と巣を見つけないと…

いずれにせよ、ナンブトウウチソウは多年草で株は残っているので、まだ無くなったりはしません。


昨年、ハヤチネウスユキソウに続いてやはり固有種のナンブトウウチソウの花穂が大量に失われるという事案が発生しました。
ほしがらす通信 2019.9.5 ふわふわマニア?

そしてナンブトウウチソウの前に仕掛けた自動撮影カメラに、ネズミが花穂に食いつく姿が写り、ネズミが原因の一つと考えられました。
ほしがらす通信 2019.10.4 ふわふわのその後

今年はどうなっているでしょうか。ナンブトウウチソウが花期を迎えたので、見に行ってみました。


小田越コース一合目の上のナンブトウウチソウ大群落。


去年はちょうどこのような雄しべのピンクが白く色あせて実がふくらんで来る頃に被害が多く発生しました。
完全に乾く前の実を食べるということは、貯蔵用ではなく生食用だったのでしょうか。


こちらは咲き始めたところ。
ともあれ、今年は目立った被害はないようです。


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さて、お話変わって、8月の後半から小田越の樹林帯ではルリビタキの子育てが見られました。


ルリビタキの巣と卵 2020.8.14

ルリビタキは夏鳥として飛来し、早池峰山の標高1200mあたりから山頂稜線までの樹林で繁殖します。小田越の樹林帯では以前、7月後半にルリビタキの営巣を見たことがありました。今回はやや遅いのでシーズン中の2回目の営巣だったのかもしれません。


数日後には目も開かないヒナが口を開けて親を待つ姿が見られました。 2020.8.21


せっせと餌の昆虫を運ぶお父さん。 2020.8.21


また数日後にはだいぶヒナが育ってきて、今度はむやみに口を開けずにじっとしています。 2020.8.27
5羽はいたようです。


こちらはお母さん。この巣の餌運びの頻度はオスの方がずっと多いようでした。 2020.8.27


それから3日後には、もう巣は空になっていました。 2020.8.30

無事に巣立ったのならよいですが。巣立ち前にテンなど?に襲われる可能性もあります。


これは別の巣から巣立ったとみられるルリビタキの幼鳥です。(このときまだ観察中の巣にはヒナがいたからです) 2020.8.27


空になった巣を後に帰る途中、別のルリビタキが餌運びをしているのに出会いました。オスです。 2020.8.30


オスが餌を運んだ場所で見つけた巣にはヒナが4つ見えました。 2020.8.30


5日後、ヒナはだいぶ育ってきました。 2020.9.4


それから3日後にはもう空になっていました。 2020.9.7

無事に巣立ったかなあ。

二つの例から、ルリビタキの孵化から巣立ちまではだいたい10日〜15日ほどだと観察しました。
センサーカメラなどで24時間監視をしているわけではないので確実ではありません。

早池峰山・薬師岳の森は、わずかに聞こえるメボソムシクイのさえずりのほかは静かになって(ホシガラスはまだいます)、秋の気配を迎えています。
ニホンジカの繁殖コールも始まりました。
さて、早池峰山でハヤチネウスユキソウやナンブトウウチソウの花がなくなる事象はその後どうなったのでしょうか。

実は、残ったハヤチネウスユキソウの株に向けて岩手県立博物館が設置した自動カメラに、ナンブトウウチソウの茎に登るネズミの姿が写っていました。岩手県立博物館の許可を得て世界初公開される画像がこちら。


2019/8/28 小田越コース三合目付近 (岩手県立博物館提供)


2019/8/31 小田越コース三合目付近 (岩手県立博物館提供)

た、確かにナンブトウウチソウにネズミが登っているぅ〜!!

このカメラを設置した県立博物館の学芸員さんが専門家に照会したところ、写っているネズミはアカネズミだそうです。
この後、9月にも同じ場所で複数回写っていたとのこと。

これでナンブトウウチソウの花が無くなる事案に関しては、主犯はアカネズミの線が濃厚になりました。
ただし、ハヤチネウスユキソウを採っている動物はこれまでのところカメラに写っておらず、こちらの原因は依然として分かっていません。

ところで、専門家によるとアカネズミは綿毛を巣に貯める性質はないそうです。
ということは…


ふわふわマニア説が…








9月中旬、岩手県自然保護課は、小田越コース一合目〜三合目の三箇所で、ナンブトウウチソウの食痕サンプルを採取し、国立研究開発法人 森林研究・整備機構(長い…)森林総合研究所の協力でDNA検査をしてもらいました。


2019/9/14 花穂の失われたナンブトウウチソウ 小田越コース三合目 


2019/9/14 ナンブトウウチソウに残された食痕 小田越コース三合目 

結果は、DNAは特定できなかったそうです。理由としては食痕が古かったか、またはシカ・カモシカでなかったことが考えられるとのこと。シカやカモシカは上顎に切歯がなく、上顎の口内の皮膚と下顎の歯でちぎるように噛み切ることから食痕に上顎の組織が残り、その組織からDNAを調べられるとのことでした。ただ食痕が古いと紫外線等によりDNAが破壊されて調べられず、また、ネズミの場合は組織が残らないために食痕からはDNAは調べられないそうです。

その後もナンブトウウチソウは、一合目の群落でも2割ほど(9月20日の時点で)の花穂が失われていました。


2019/9/20 小田越コース一合目で

三合目あたりではどういう状態の花が採られるのかよくわかりませんでしたが、一合目の花を見ると、花期がやや過ぎて実が膨らんできたあたりに無くなっていたようです。ナンブトウウチソウの花は小さな花が密集して穂になっていて、ピンク色の毛のようなものは雄しべです。その花の一つ一つに実がつきます。


10月に入り、河原坊コースの頭垢離(こうべごり)まで行ってみました(河原坊コース登山道は閉鎖中ですが自然公園保護管理員は現況を確認するため巡視しています)。

頭垢離(標高1377m付近)の斜面には東北森林管理局が設置した防鹿柵がありますが、ここにはナンブトウウチソウの群落があります。
ここで、やはり多くのナンブトウウチソウの花穂が失われていました。全体の半数以上でしょうか。


2019/10/3 河原坊コース 頭垢離付近で


同上 (以下も同じ)


後ろに見えているのは東北森林管理局の防鹿柵です。


これは森林管理局の柵の中のナンブトウウチソウです。


そして柵の中でも多くの花が食べられていました。

ということは、やはりナンブトウウチソウを食べているのはネズミでしょうか。柵をわざわざ飛び越えてシカが出入りし、ナンブトウウチソウを食べてるとは考えにくいです。(この柵内を撮っているカメラもありますので、万が一シカが入っていれば写るでしょう。)
一方、シカのネットの網の目をくぐることなどネズミには楽勝でしょう。

ネズミといえば、今年は河原坊のビジターセンターの事務所内でネズミが多く発生し、袋入りラーメンなどをかじっていました。彼らは歩いたところに糞を撒き散らしていきます。もしナンブトウウチソウを食べているのがネズミなら、近くに糞も見つかるはずです。
そう思って探すとやはり落ちていました。


ナンブトウウチソウとネズミの糞(これは柵の中ではありません)


拡大

ただ、ナンブトウウチソウは以前からシカも食べていて(ほしがらす通信2018年8月29日「やっとネットもっとやって」参照)、
食痕によってはネズミではなくシカではないか?と思われるものもありました。


花だけを食べているのではなくもっと下から失われているもの。シカの可能性があります。


これは花だけが無くなっていて、小田越コースで多く見られた食痕と同じ。ネズミによるものと思われます。


というわけでこれまでに分かったことは、

・ナンブトウウチソウの花を採っているのは主にアカネズミなどのネズミで、食料としてらしい。
 (ただし全てネズミの仕業とは言えずシカの可能性もある。)
・ハヤチネウスユキソウの花を採っていたのは何か分からない。
・ふわふわ説は絶望的だ。

ということですね。

まあ、そもそもふわふわマニア、生乾きの花を敷き詰めて快適か?という問題が。




来年もこの事象が起こるのかどうかわかりませんが、対策は複数の原因を想定して立てた方がよいでしょう。もしハヤチネウスユキソウの被害がシカによるものであれば、シカが減らない限りは来年以降も繰り返し被害が発生し、いずれは花が見られなくなります。

早池峰山で今年度行われているシカ対策についてはまた回を改めて報告したいと思います。


10月7日 追記

その後、県立博物館の学芸員さんから、ナンブトウウチソウに仕掛けたセンサーカメラの別の写真から、写ったネズミがアカネズミではなくヒメネズミの可能性もあるとのお知らせを頂きました。

ヒメネズミもアカネズミと同様、平地から高山帯まで生息する野ネズミの一種です。そして手持ちの図鑑を見ると、ヒメネズミは巣に落ち葉を詰め込むという記述が。さらにネットで調べてみると、ヒメネズミもアカネズミも巣に枯れ草や植物を巣材に使っている画像が出てきました。

ということは…ふわふわ説復活か?

fuwafuwa.jpg

ふっわーい!(しつこい)

もしかして、野ネズミは繁殖期を迎えてまずハヤチネウスユキソウの綿毛で巣を整え、その後産まれた仔ネズミに餌を与えるために大量のナンブトウウチソウの実が必要だったのでは…?想像がふくらみふわふわ。
これを証明するにはネズミの巣穴を見つけて調べるか、来年ネズミのために巣箱を設置して観察するなどが必要ですね。


さて、少なくともナンブトウウチソウの被害がネズミによるものらしいと分かり、来年はどういう対策を取ればよいのでしょうか。

一つの考え方は、何も対策しないというものです。というのは、ニホンジカと違い野ネズミは以前から早池峰山に生息する動物で、最近侵入したわけではないからです。何らかの理由(昨年食料が豊富だったなど)により一時的に数が増えたとしても、増え過ぎれば食料が足りなくなり、自然に個体数を減らすことが考えられます。

もう一つの考え方は、自然に任せるよりもう少し積極的に保護するというもの。まとまった群落の一部にネズミも通れないような網をかけて保護してはどうでしょうか。ただし、植物の光合成に必要な日照を妨げないようなものでなければなりませんが。

みんな、どう思う?
8月に発生したハヤチネウスユキソウ大量首切りの犯人はその後も明らかになっていません。
岩手県では残ったハヤチネウスユキソウの前にセンサーカメラを仕掛けましたが、その後ハヤチネウスユキソウの被害は止まったのです。

去る8月26日に、県が毎年行なっているハヤチネウスユキソウの株数調査が行われました。その時、県南振興局の職員の方がカウンター片手に数えたところでは、頭のないハヤチネウスユキソウは小田越コースだけで500本を数えたそうです。それに私がざっくり数えた河原坊コース・山頂西側の縦走コース・剣ヶ峰方面の稜線上を合わせれば、総数で700本を超えます。登山道から離れたところにもあるとすればもっと増えるでしょう。
このハヤチネウスユキソウの「頭花と苞葉の採取」は、生息地のほぼ全域に及ぶ規模で、そして時間差で繰り返し行われたことを考えると、人間による可能性は極めて低いものと考えられます。

それでは何らかの動物ということになりますが、果たして何か。まず疑われる大型草食哺乳類にシカ(ニホンジカ=ここでは亜種ホンシュウジカ)とニホンカモシカがいます。この2種に関しては、ハヤチネウスユキソウを摂食している瞬間はカメラに写っていないものの、周辺のセンサーカメラには写っています。ただし、今回の事案の原因動物として疑問符がつくのは、同時期にほぼハヤチネウスユキソウのみが失われ、他の植物には目立った食痕が認められなかったことです。シカやカモシカは以前から他の植物を食べています。ハヤチネウスユキソウだけを700本も食べる理由が、今までの観察結果からは推量できません。

今回、被害はまず小田越コース上では三・四・五合目付近で始まり、その後標高の高い七合目・九合目に移りました。その時間差は、私は花の状態の変化にあるのではないかと考えています。
取られた花は、人の目から見て一番美しい時期は過ぎていて、いっぽう種を取るにはまだ少し早い時期のものでした。
ここに、人間原因説を否定するもう一つの根拠があります。花を押し花などにするなら、7月中がよかったでしょう。(その意味で、7/20の一件は、人の可能性が高いとも思われます。)また、種子を採取するなら今頃がちょうどいいはずです。
原因が動物であっても、その動物は今現在の実った種子、ドライフラワーのように乾燥した苞葉にはもう興味がないようです。一体何のためにある時期のハヤチネウスユキソウの頭花と苞葉を集めたのか…
その時期のハヤチネウスユキソウが食料として魅力的だ、と本人に言われればそうかと言うしかありませんが。


今のハヤチネウスユキソウはもう魅力的ではないらしい。 9月4日 小田越コースで


私は、少し前に河原坊コースでの被害を確認した時から、一つの可能性を考えています。

今回、大量のハヤチネウスユキソウに被害が出る一方で、同じウスユキソウ属のミネウスユキソウには被害がありません。初めは時期的にミネウスユキソウの花期がやや遅いせいかとも思いましたが、ミネウスユキソウが、取られた時のハヤチネウスユキソウと同じような時期になっても取られてはいません。
また、私はハヤチネウスユキソウの近くで、同じようにチングルマの頭(この場合種子と萼)が失われた株をいくつも見ました。


種子と萼ごと失われたチングルマ  8月12日 河原坊コース 頭垢離付近で


チングルマの種子(雨に濡れています)


種子が風に乗って飛んだのであれば、このように萼が残るはずです。


ハヤチネウスユキソウにあってミネウスユキソウにないもの。
そしてチングルマの種子にあるもの。

それは綿毛です。

私が考える一つの可能性、それは

犯人はふわふわマニアではないか

ということです。ハヤチネウスユキソウの頭を取っていたのは食べるためではなく、綿毛を何かに利用するためではないのか。何に…?すぐに思いつくのは巣材としてです。
犯人は巣の中にハヤチネウスユキソウやチングルマのふわふわを敷き詰めているのではないでしょうか。


(想像図)

巣作りといえば鳥を思い浮かべるかもしれませんが、早池峰山の高山帯に生息する鳥類は、8月にはもう繁殖期を終えています。鳥は繁殖を終えれば巣を利用しません。
ここで原因動物として推定されるのは、小型哺乳類です。例えばネズミの類であれば、ある年に突然大量に発生することも考えられます。団塊ジュニア?のふわふわマニアに一大マイホームブームが…!今年突然起きたとしても不思議ではありません。
実はハヤチネウスユキソウの頭がなくなる事件は10年前にも起きていて、今年ほど大量ではありませんでしたが、その時は人間による盗採だということになりました。10年というスパンには今のところ意味が見出せませんが、餌の条件などが揃ったのかもしれません。

綿毛に用があるのならばミネウスユキソウはじめ綿毛のない植物には用が無いわけですし、小型動物であれば、河原坊コースで森林管理局が建てた防鹿柵の中にも被害があったことも納得がいきます。シカ柵の網など出入り自由ですからね。
ただ、これは一つの推論でしかありません。ハヤチネウスユキソウを巣穴に溜め込んでいるところを発見しない限りは…

ほかに可能性がある動物としては、やはり以前から様々な植物を食べているノウサギがいます。
いずれにせよ、お好みの時期を過ぎたハヤチネウスユキソウを自動カメラで狙っていても、残念ながらもうやって来ないと思われます。


事件に迷宮入りの雰囲気が漂い始めた中、9月に入り新たに事態が動きました。今度はやはり早池峰山の固有種であるナンブトウウチソウに、花穂が失われたものが出始めたのです。初めの報告はおととい9月3日。翌日さっそく私は確認に登りました。


ナンブトウウチソウ 小田越コース三合目で 9月4日


同 四合目付近で 9月4日 かなりがっつり失われていますね。



ナンブトウウチソウ…これもふわふわじゃないか!しかも甘いいい匂いがする!

…ということは…!



ふわっふわーい (謎)

そんなメルヘンな場合か。
三合目周辺でざっと100本(一本の花茎から分かれた枝それぞれを一本と数えて)、四合目の標柱から五合目手前のお鉢巡り岩までの間でざっと数えて200本ほどのナンブトウウチソウの花穂がなくなっていました。
ハヤチネウスユキソウを700本も坊主にした犯人と、ナンブトウウチソウを襲っている犯人は同一なのか。
ナンブトウウチソウは以前からシカも食べています。
真相は果たして…!?


9月4日の時点では一合目のナンブトウウチソウの大群落はまだ無事です。
今から出来ることは?


ここで、話は少し方向を変えます。

今回のハヤチネウスユキソウの被害に関して、新しい食痕を採取して唾液をDNA鑑定し、原因動物を特定できるのではないかというアイデアが或る機関の方から県に寄せられたそうです。
しかしそれには新しいサンプルが必要で、かじられてから10日以内に検査しないとわからないとのこと。
その話が、現場を歩いている自然公園保護管理員に届いたのは8月30日でした。その時にはもう、ハヤチネウスユキソウの新しい被害は出なくなっていました。
8月に入り次々と発生したハヤチネウスユキソウの頭なし個体。遡って考えると、発生した時期を数日以内に絞ることができたのは、8月7日にはあって15日には無くなっていた五合目手前の株と、14日にはあったのに18日にはなくなっていた九合目手前の群落でした(前回の記事参照)。この時にサンプル採取ができていれば、何か分かったかもしれません。

何が言いたいかというと、刻々と変化する状況を、早池峰山に関係する様々な機関(県・市・森林管理署など)で逐一情報共有できていれば、もっと早い対応が可能だったのではないか?ということです。去年のシーズンの終わりに、シカのこともあり、早池峰山の関係者間でインターネット掲示板なりメーリングリストなりを設置して情報共有を図った方がいいのではないかと会議で提案し(たのは私だけではありません)ていましたが実現していません。三人寄れば文殊の知恵というように、同じ事象についても複数で考えればアイデアも生まれやすいというもの。金と権限はあるが現場を歩いていない皆さんが新しい事態に即応するには何よりも情報収集と共有のスピードが大切です。今回のことを糧に、今後のシカ対策のこともあるので、情報共有の仕組みと何かあった時にすぐに動ける態勢を一日も早く作って欲しいと切に願います。