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さて、早池峰山でハヤチネウスユキソウやナンブトウウチソウの花がなくなる事象はその後どうなったのでしょうか。

実は、残ったハヤチネウスユキソウの株に向けて岩手県立博物館が設置した自動カメラに、ナンブトウウチソウの茎に登るネズミの姿が写っていました。岩手県立博物館の許可を得て世界初公開される画像がこちら。


2019/8/28 小田越コース三合目付近 (岩手県立博物館提供)


2019/8/31 小田越コース三合目付近 (岩手県立博物館提供)

た、確かにナンブトウウチソウにネズミが登っているぅ〜!!

このカメラを設置した県立博物館の学芸員さんが専門家に照会したところ、写っているネズミはアカネズミだそうです。
この後、9月にも同じ場所で複数回写っていたとのこと。

これでナンブトウウチソウの花が無くなる事案に関しては、主犯はアカネズミの線が濃厚になりました。
ただし、ハヤチネウスユキソウを採っている動物はこれまでのところカメラに写っておらず、こちらの原因は依然として分かっていません。

ところで、専門家によるとアカネズミは綿毛を巣に貯める性質はないそうです。
ということは…


ふわふわマニア説が…








9月中旬、岩手県自然保護課は、小田越コース一合目〜三合目の三箇所で、ナンブトウウチソウの食痕サンプルを採取し、国立研究開発法人 森林研究・整備機構(長い…)森林総合研究所の協力でDNA検査をしてもらいました。


2019/9/14 花穂の失われたナンブトウウチソウ 小田越コース三合目 


2019/9/14 ナンブトウウチソウに残された食痕 小田越コース三合目 

結果は、DNAは特定できなかったそうです。理由としては食痕が古かったか、またはシカ・カモシカでなかったことが考えられるとのこと。シカやカモシカは上顎に切歯がなく、上顎の口内の皮膚と下顎の歯でちぎるように噛み切ることから食痕に上顎の組織が残り、その組織からDNAを調べられるとのことでした。ただ食痕が古いと紫外線等によりDNAが破壊されて調べられず、また、ネズミの場合は組織が残らないために食痕からはDNAは調べられないそうです。

その後もナンブトウウチソウは、一合目の群落でも2割ほど(9月20日の時点で)の花穂が失われていました。


2019/9/20 小田越コース一合目で

三合目あたりではどういう状態の花が採られるのかよくわかりませんでしたが、一合目の花を見ると、花期がやや過ぎて実が膨らんできたあたりに無くなっていたようです。ナンブトウウチソウの花は小さな花が密集して穂になっていて、ピンク色の毛のようなものは雄しべです。その花の一つ一つに実がつきます。


10月に入り、河原坊コースの頭垢離(こうべごり)まで行ってみました(河原坊コース登山道は閉鎖中ですが自然公園保護管理員は現況を確認するため巡視しています)。

頭垢離(標高1377m付近)の斜面には東北森林管理局が設置した防鹿柵がありますが、ここにはナンブトウウチソウの群落があります。
ここで、やはり多くのナンブトウウチソウの花穂が失われていました。全体の半数以上でしょうか。


2019/10/3 河原坊コース 頭垢離付近で


同上 (以下も同じ)


後ろに見えているのは東北森林管理局の防鹿柵です。


これは森林管理局の柵の中のナンブトウウチソウです。


そして柵の中でも多くの花が食べられていました。

ということは、やはりナンブトウウチソウを食べているのはネズミでしょうか。柵をわざわざ飛び越えてシカが出入りし、ナンブトウウチソウを食べてるとは考えにくいです。(この柵内を撮っているカメラもありますので、万が一シカが入っていれば写るでしょう。)
一方、シカのネットの網の目をくぐることなどネズミには楽勝でしょう。

ネズミといえば、今年は河原坊のビジターセンターの事務所内でネズミが多く発生し、袋入りラーメンなどをかじっていました。彼らは歩いたところに糞を撒き散らしていきます。もしナンブトウウチソウを食べているのがネズミなら、近くに糞も見つかるはずです。
そう思って探すとやはり落ちていました。


ナンブトウウチソウとネズミの糞(これは柵の中ではありません)


拡大

ただ、ナンブトウウチソウは以前からシカも食べていて(ほしがらす通信2018年8月29日「やっとネットもっとやって」参照)、
食痕によってはネズミではなくシカではないか?と思われるものもありました。


花だけを食べているのではなくもっと下から失われているもの。シカの可能性があります。


これは花だけが無くなっていて、小田越コースで多く見られた食痕と同じ。ネズミによるものと思われます。


というわけでこれまでに分かったことは、

・ナンブトウウチソウの花を採っているのは主にアカネズミなどのネズミで、食料としてらしい。
 (ただし全てネズミの仕業とは言えずシカの可能性もある。)
・ハヤチネウスユキソウの花を採っていたのは何か分からない。
・ふわふわ説は絶望的だ。

ということですね。

まあ、そもそもふわふわマニア、生乾きの花を敷き詰めて快適か?という問題が。




来年もこの事象が起こるのかどうかわかりませんが、対策は複数の原因を想定して立てた方がよいでしょう。もしハヤチネウスユキソウの被害がシカによるものであれば、シカが減らない限りは来年以降も繰り返し被害が発生し、いずれは花が見られなくなります。

早池峰山で今年度行われているシカ対策についてはまた回を改めて報告したいと思います。


... 続きを読む
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8月に発生したハヤチネウスユキソウ大量首切りの犯人はその後も明らかになっていません。
岩手県では残ったハヤチネウスユキソウの前にセンサーカメラを仕掛けましたが、その後ハヤチネウスユキソウの被害は止まったのです。

去る8月26日に、県が毎年行なっているハヤチネウスユキソウの株数調査が行われました。その時、県南振興局の職員の方がカウンター片手に数えたところでは、頭のないハヤチネウスユキソウは小田越コースだけで500本を数えたそうです。それに私がざっくり数えた河原坊コース・山頂西側の縦走コース・剣ヶ峰方面の稜線上を合わせれば、総数で700本を超えます。登山道から離れたところにもあるとすればもっと増えるでしょう。
このハヤチネウスユキソウの「頭花と苞葉の採取」は、生息地のほぼ全域に及ぶ規模で、そして時間差で繰り返し行われたことを考えると、人間による可能性は極めて低いものと考えられます。

それでは何らかの動物ということになりますが、果たして何か。まず疑われる大型草食哺乳類にシカ(ニホンジカ=ここでは亜種ホンシュウジカ)とニホンカモシカがいます。この2種に関しては、ハヤチネウスユキソウを摂食している瞬間はカメラに写っていないものの、周辺のセンサーカメラには写っています。ただし、今回の事案の原因動物として疑問符がつくのは、同時期にほぼハヤチネウスユキソウのみが失われ、他の植物には目立った食痕が認められなかったことです。シカやカモシカは以前から他の植物を食べています。ハヤチネウスユキソウだけを700本も食べる理由が、今までの観察結果からは推量できません。

今回、被害はまず小田越コース上では三・四・五合目付近で始まり、その後標高の高い七合目・九合目に移りました。その時間差は、私は花の状態の変化にあるのではないかと考えています。
取られた花は、人の目から見て一番美しい時期は過ぎていて、いっぽう種を取るにはまだ少し早い時期のものでした。
ここに、人間原因説を否定するもう一つの根拠があります。花を押し花などにするなら、7月中がよかったでしょう。(その意味で、7/20の一件は、人の可能性が高いとも思われます。)また、種子を採取するなら今頃がちょうどいいはずです。
原因が動物であっても、その動物は今現在の実った種子、ドライフラワーのように乾燥した苞葉にはもう興味がないようです。一体何のためにある時期のハヤチネウスユキソウの頭花と苞葉を集めたのか…
その時期のハヤチネウスユキソウが食料として魅力的だ、と本人に言われればそうかと言うしかありませんが。


今のハヤチネウスユキソウはもう魅力的ではないらしい。 9月4日 小田越コースで


私は、少し前に河原坊コースでの被害を確認した時から、一つの可能性を考えています。

今回、大量のハヤチネウスユキソウに被害が出る一方で、同じウスユキソウ属のミネウスユキソウには被害がありません。初めは時期的にミネウスユキソウの花期がやや遅いせいかとも思いましたが、ミネウスユキソウが、取られた時のハヤチネウスユキソウと同じような時期になっても取られてはいません。
また、私はハヤチネウスユキソウの近くで、同じようにチングルマの頭(この場合種子と萼)が失われた株をいくつも見ました。


種子と萼ごと失われたチングルマ  8月12日 河原坊コース 頭垢離付近で


チングルマの種子(雨に濡れています)


種子が風に乗って飛んだのであれば、このように萼が残るはずです。


ハヤチネウスユキソウにあってミネウスユキソウにないもの。
そしてチングルマの種子にあるもの。

それは綿毛です。

私が考える一つの可能性、それは

犯人はふわふわマニアではないか

ということです。ハヤチネウスユキソウの頭を取っていたのは食べるためではなく、綿毛を何かに利用するためではないのか。何に…?すぐに思いつくのは巣材としてです。
犯人は巣の中にハヤチネウスユキソウやチングルマのふわふわを敷き詰めているのではないでしょうか。


(想像図)

巣作りといえば鳥を思い浮かべるかもしれませんが、早池峰山の高山帯に生息する鳥類は、8月にはもう繁殖期を終えています。鳥は繁殖を終えれば巣を利用しません。
ここで原因動物として推定されるのは、小型哺乳類です。例えばネズミの類であれば、ある年に突然大量に発生することも考えられます。団塊ジュニア?のふわふわマニアに一大マイホームブームが…!今年突然起きたとしても不思議ではありません。
実はハヤチネウスユキソウの頭がなくなる事件は10年前にも起きていて、今年ほど大量ではありませんでしたが、その時は人間による盗採だということになりました。10年というスパンには今のところ意味が見出せませんが、餌の条件などが揃ったのかもしれません。

綿毛に用があるのならばミネウスユキソウはじめ綿毛のない植物には用が無いわけですし、小型動物であれば、河原坊コースで森林管理局が建てた防鹿柵の中にも被害があったことも納得がいきます。シカ柵の網など出入り自由ですからね。
ただ、これは一つの推論でしかありません。ハヤチネウスユキソウを巣穴に溜め込んでいるところを発見しない限りは…

ほかに可能性がある動物としては、やはり以前から様々な植物を食べているノウサギがいます。
いずれにせよ、お好みの時期を過ぎたハヤチネウスユキソウを自動カメラで狙っていても、残念ながらもうやって来ないと思われます。


事件に迷宮入りの雰囲気が漂い始めた中、9月に入り新たに事態が動きました。今度はやはり早池峰山の固有種であるナンブトウウチソウに、花穂が失われたものが出始めたのです。初めの報告はおととい9月3日。翌日さっそく私は確認に登りました。


ナンブトウウチソウ 小田越コース三合目で 9月4日


同 四合目付近で 9月4日 かなりがっつり失われていますね。



ナンブトウウチソウ…これもふわふわじゃないか!しかも甘いいい匂いがする!

…ということは…!



ふわっふわーい (謎)

そんなメルヘンな場合か。
三合目周辺でざっと100本(一本の花茎から分かれた枝それぞれを一本と数えて)、四合目の標柱から五合目手前のお鉢巡り岩までの間でざっと数えて200本ほどのナンブトウウチソウの花穂がなくなっていました。
ハヤチネウスユキソウを700本も坊主にした犯人と、ナンブトウウチソウを襲っている犯人は同一なのか。
ナンブトウウチソウは以前からシカも食べています。
真相は果たして…!?


9月4日の時点では一合目のナンブトウウチソウの大群落はまだ無事です。
今から出来ることは?


ここで、話は少し方向を変えます。

今回のハヤチネウスユキソウの被害に関して、新しい食痕を採取して唾液をDNA鑑定し、原因動物を特定できるのではないかというアイデアが或る機関の方から県に寄せられたそうです。
しかしそれには新しいサンプルが必要で、かじられてから10日以内に検査しないとわからないとのこと。
その話が、現場を歩いている自然公園保護管理員に届いたのは8月30日でした。その時にはもう、ハヤチネウスユキソウの新しい被害は出なくなっていました。
8月に入り次々と発生したハヤチネウスユキソウの頭なし個体。遡って考えると、発生した時期を数日以内に絞ることができたのは、8月7日にはあって15日には無くなっていた五合目手前の株と、14日にはあったのに18日にはなくなっていた九合目手前の群落でした(前回の記事参照)。この時にサンプル採取ができていれば、何か分かったかもしれません。

何が言いたいかというと、刻々と変化する状況を、早池峰山に関係する様々な機関(県・市・森林管理署など)で逐一情報共有できていれば、もっと早い対応が可能だったのではないか?ということです。去年のシーズンの終わりに、シカのこともあり、早池峰山の関係者間でインターネット掲示板なりメーリングリストなりを設置して情報共有を図った方がいいのではないかと会議で提案し(たのは私だけではありません)ていましたが実現していません。三人寄れば文殊の知恵というように、同じ事象についても複数で考えればアイデアも生まれやすいというもの。金と権限はあるが現場を歩いていない皆さんが新しい事態に即応するには何よりも情報収集と共有のスピードが大切です。今回のことを糧に、今後のシカ対策のこともあるので、情報共有の仕組みと何かあった時にすぐに動ける態勢を一日も早く作って欲しいと切に願います。

2018.04.28 八森山
少し前に、大迫の外川目にある八森山(757m)に登ってみた。「はちもり」という名の山は全国にあり、その多くには「鉢盛」の字があてられている。丸みを帯びた山を、鉢を逆さにした形状そのままに名付けたものだろう。「八森山」も元々は「鉢盛山」だったのかもしれない。



北側の沢崎集落の林縁部から作業道を辿り尾根に出て、あとは尾根の一番高いところを南東方向に歩いて行くとそれほど苦労なく山頂に着いた。北西側の尾根から山頂にかけては国土地理院の地図には点線で道が記されているが、今はわからなくなっている。ただ松林なので、林内の見通しは比較的きき、予想通り、雪解けから草木が生い茂る前の時期は歩きやすかった。
山頂からの眺望はないが、途中の伐開地からは思いがけず早池峰山と薬師岳が見え喜んだ。


左手前が猫山、右奥に早池峰山、白森山を挟んで薬師岳。 2018.3.31


早池峰


薬師

山頂には三角点だけでなく手製の標識もある。(以下、2018.4.2)


そして、あたり一帯のササはニホンジカによって葉がかなり食べられていた。




尾根上の松林の林床のササも、よく食べられている。




足跡や糞もあったし、個体にも二つ出会った。

岩手県のニホンジカは大船渡市・釜石市・住田町にまたがる五葉山で保護していたものが今や県北部まで広がっているので、花巻市の中では遠野市に接するこの地域にすでに多くのシカが生息しているのは何の不思議もないが、人の通わない山中に痕跡が多いのを見ると改めてげんなりする。大迫では外川目も内川目も最近では田んぼに電気柵を設置するようになっている。

ところで、こんなマイナーな山にも時々登る人がいるらしく、その記録がブログに残っている。
「花巻市 八森山」で検索すると、とりあえず2件の山行記録が出てくる。それは2013年5月と2015年12月の記録なのだが、そこに載っている写真を見ると、2015年12月にして山頂付近で今よりもササが茂っているのがわかる。
つまり八森山頂付近のササが坊主になったのはここ2年のことなのだ。これは、早池峰山南麓での植物の被食増加の時期とだいたい同じ傾向だと言える。

2015年から2017年にかけて何があったのか?
それが分かっても分からなくても、シカはどんどん増え続け、この春も早池峰山に迫ってくるだろう。





例年になく多かった雪もいつの間にやら消えて、春は来るものだと感慨深い。


2018.3.28 大迫町岳より早池峰山(中央)と中岳(左)


あっという間に岩肌が出た

とはいえ、山頂にたどり着くためにはまず冬季通行止めの雪の県道をテクテク歩いて登山口までたどり着き、樹林帯はまだまだ雪なので柔らかくなった湿雪をズボズボ歩いて稜線に出なければならない。遠目に雪がないように見えても実際には思ったよりあるものだ。まあ、経験のない人は山開きを待ったほうがいいですよ。時々、無雪期にも来たことがないのに積雪期に登りに来る人がいるが、何を考えているのか理解に苦しむ。


ゲートは5月9日に開くそうな。


さて、早池峰山よりはるかに下った大迫町亀ヶ森地区のミサゴの巣には、ミサゴが繁殖のため戻ってきていた。


2018.3.27 蜃気楼でぼやけている。


このアカマツは2年くらい前から松食い虫にやられて枯れてしまったが、ミサゴの巣の巣材もだいぶ落ちたように見え、一層みすぼらしくなった。巣材を足した方がいいんじゃないかねえ。


2016.7.26

2年前には真っ赤だったがもう少しマシだった。今や枯れた松葉が全部落ちたのだな。
いつかは幹が折れるんじゃないかと気になっている。

毎月末の投稿である。夏休みの最終日に宿題をする子供のようだ。

この冬は寒く、雪も多かった。今はまだこれが本当に全部水になるのかと思うが、あと三ヶ月もすれば山の雪も融けて草が芽を出す。雪が融けるのと同時に山に上がって来るのがニホンジカである。去年の勢いを考えると今年はさらに早くから、速いスピードと量で、早池峰山に迫ることは間違いない。
ドカ雪が降るとシカは死んでしまうと言われているが、麓のササの食われようを見るとそんなに楽観は出来ない。近年岩手県内では年間1万頭のシカを捕獲(駆除)しているが、早池峰山周辺では減るどころか増えている。捕獲数を出生数が上回っているのだろう。


雪から出たササの葉を食べ尽くす  県道25号沿いの大又地区で 2018年2月16日

2016年から2017年にかけて、早池峰山南面の標高1000mから1300m付近にかけてシカによる植物の被食が爆発的に増えた。今年は河原の坊コースの頭垢離(標高1377m)にある高山植物の群落に必ずシカの群が到達すると私はみている。雪が融けると同時に希少植物の群落に柵を設置してシカによる被食を防ぐ必要があると、折に触れ岩手県自然保護課に訴えているが反応は鈍い。この2年の急激な変化を見ていないからだ。県自然保護課の自然公園担当の職員は昨年4月に全員が異動で入れ替わった。こうした人事異動があると継続的な仕事を期待するのは難しい。

そもそも日本では環境保護行政が弱い。岩手県自然保護課も両手で足りるほどの人員で北海道の次に広い県土を担当しているので、早池峰山に回って来るのは年に1、2回になってしまう。行政の中で自然環境の保全や保護が優先順位の低いものになっているのだから、当然、環境の状態がどのようなものであるか観察することには注意も予算も払われない。それは国から県、市町村まで同じである。


そんな中で今日は花巻市の取り組みを少し評価してみたい。現在、花巻市では第2次環境基本計画というものに沿って、市内の生き物に関するアンケート調査を行っている。アンケートに答えているのは市内の環境関連団体や環境マイスターを委嘱された個人である。このアンケートはどういうものかというと、花巻市内の動植物の過去3年以内の生息状況を指定のリストに従ってチェックするというものだ。リストは県南広域振興局花巻総合支局保健福祉環境部(長い…)が2007年に発行した『花巻の大切にしたい生きもの』が指定した、植物254種、動物173種である(記事の最後のリンク先参照)。

花巻市では平成19年度に初めて環境基本計画を策定し、その施策の中の「生物多様性の保全」において、この「花巻の大切にしたい生き物=植物254種・動物173種」を成果指標に設定していた。ところが、この環境基本計画は策定されただけで成果指標の達成はチェックされず年月が経ち、そのうち東日本大震災が起きてうやむやになってしまっていた。そして計画の期間は平成27年度までだったために、28年度を目指して新たに第2次環境基本計画が策定された。

筆者はその第2次環境基本計画の策定に花巻市の環境審議会委員として関わることになり、前計画期間中には全くされることなく終わった生物種の調査を施策として盛り込むよう働きかけた。3年前のミサゴ騒動(ブログ内記事参照→「亀ヶ森のミサゴと産廃処分場」)から、地域の生物情報を把握しておくことの大切さを痛感していたからである。結果、「各種団体の調査データ等を活用することにより、現状の把握に努め、生物多様性の保全に役立てます」という文言が施策に入ったが、市内の生物種の調査は成果指標としては盛り込まれなかった。要するに環境調査を実施するだけのお金はないので、各種団体にアンケート調査をするだけ、それも振り返りの義務はないことに止まったのである。

その第2次の計画期間の初年度である平成28年度。「各種団体の調査データを活用する」アンケートでは、「文献で確認した種を除外した植物10種、動物11種」についてのみ調査したという。その文献とは何かを審議会で訊ねてみると、平成26年に改定された『岩手レッドデータブック』だという。つまり『花巻の大切にしたい生きもの』が指定した、植物254種、動物173種のうち、『岩手レッドデータブック』で花巻市が生息域になっているものについては「いるんだな」ということで除外したというのである。その残りが植物10種、動物11種。それをアンケート調査しました。しかし、平成26年に出たということは、その元になっているのは平成25年までのデータであろう。それも執筆者がいつどのように花巻市内での生息を調べたのかはわからない。それってどうなの。ということで、29年度には植物254種、動物173種全てについてアンケート調査を実施することにしてもらった。それがこの2月中までに行われていたのである。

前計画の8年間、アンケート調査すらまったく行われていなかったことを思えば、花巻市生活環境課がこの調査を実施したことをまずは評価したい。筆者も環境マイスターになっているのでアンケートに答えたが、これは意外とよい取り組みだと思った。要するにリストにある生物を最近3年間に見たかどうかということなのだが、意外と3年は早い。あそこに行けばある、いると知っていても、見ないうちに3年くらい過ぎてしまっているものがいくつかあった。早池峰山でオコジョ(花巻・HAランク、岩手・Bランク、環境省・準絶滅危惧)を、私はこの3年見ていない。また、植物や昆虫、魚類などについては知らない種の方が多かった。これは今までより気をつけて見なければという気にさせられ、自分に対してはいい効果だと思った次第である。

次はこのアンケート調査の結果どうするかである。植物254種、動物173種のうちアンケート回答者の誰も過去3年間に確認できなかった種があった場合にどうするか。『花巻の大切にしたい生きもの』または『岩手レッドデータブック』の執筆陣に、その生物種を花巻市内のどこでいつ確認したかを聞き取り調査し、現状を確認しに行かなければなるまい。楽しみですねえ。

こうした生物の生態調査を、例えば花巻市の全域でプロに頼んで行なうにはかなりの費用がかかる。地域の環境を観察している団体や市民に報告してもらうのはその点で理にかなっているし、花巻市民でもない他所のプロに頼むよりも市民がそれぞれの居住地域の生物情報を把握している方が良い。理想的にはできるだけ多くの市民が参加して市内全域を網羅した「生きもの調べ」をするのが望ましい。そのことで地域の価値の再発見にもなるし地域に愛着もわくだろう。しかしそうした知識・情報を持つ団体(野鳥の会など)や個人は現状ではそれほど多くないのではないかと思う。首都圏であれば一つの市内にはバードウオッチャーや植物マニアはある程度の人数がいるであろうが、花巻市民9万6千人のうちどのくらいいるだろう。そして人口はどんどん減少していく。いま現在の地域の生物情報を蓄えた人材も、10年後にはどうなっているだろう。地域の生物情報という知的財産は、蓄積し常にアップデートするのには多大な時間と労力がかかる一方で、失われるのはおそらくあっという間だ。今からでもこまめな情報収集と公的な(=継続性が保たれる)組織によるデータベース化、若者や子供を巻き込んだ人材育成が急がれる。


『花巻の大切にしたい生きもの』植物254種、動物173種のリスト(資料中p.11〜p.18)
https://www.city.hanamaki.iwate.jp/shimin/158/166/p002721_d/fil/1206597584879.pdf

花巻市環境計画(平成20年〜平成27年。宮沢賢治の思想や地球サミットに言及するなど意識高い感じに作られたが絵に描いた餅に終わった)
https://www.city.hanamaki.iwate.jp/shimin/158/166/p005535_d/fil/1206597584785.pdf

花巻市第2次環境基本計画(平成28年からの現行計画)
https://www.city.hanamaki.iwate.jp/shimin/158/166/p005535_d/fil/2keikaku.pdf



クマタカ(「花巻の大切にしたい生き物」HAランク、岩手・Aランク、環境省・絶滅危惧ⅠB類)
成鳥 大迫町内川目 2018.1.15