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 2023年7月22日、早池峰山の1700m付近で、環境省絶滅危惧ⅠA類、国内希少野生動植物種、いわてレッドデータブックAランクに指定されているラン科の植物ヒメスズムシソウが盗掘されているのを巡回中の自然公園保護管理員(筆者)が発見しました。ヒメスズムシソウは早池峰山では2018年に初めて生息が確認(筆者による)された植物で、ほかでは栃木県、長野県、山梨県でしか確認されていません。今回、早池峰山ではこの場所に生息していた8株すべてが根こそぎ持ち去られました。
 前日には早池峰グリーンボランティアの方が生息を確認しており、盗掘は7月21日の午後から22日の夕方までの間に行われたとみられています。
 
早池峰山でのヒメスズムシソウの盗掘は、自然公園法違反(特別保護地区内での許可のない植物採取)、文化財保護法違反(特別天然記念物の無許可の現状変更および毀損)、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法・生きている個体の採取の禁止)違反、森林法違反(森林窃盗)にあたり、行為を行なった者にはそれぞれの法律に則った懲役や罰金が科されます。
 岩手県では、ヒメコザクラの盗掘事案と併せて警察に相談しています。


盗掘前 2023年7月11日


盗掘後 2023年7月22日
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今期のNHK朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルとなり、何かと話題に事欠かない牧野富太郎ですが、早池峰山の植物にも大いに関わりがあります。

現在知られている早池峰山の植物の多くを最初に世に知らしめたのは、「らんまん」にも登場したロシアの植物学者マキシモヴィッチでした。とは言え、マキシモヴィッチ本人は早池峰山には登っておらず、紫波出身の須川長之助が採集した標本を元にロシアで発表していました。
牧野富太郎は、主にマキシモヴィッチが発表した植物に和名をつけるという形で早池峰山の植物研究史に登場します。また、陸前高田出身の鳥羽源蔵など複数の人が早池峰山で採集し牧野に送った標本を元に牧野が公に発表したものもあります。
そして牧野自身は1905年8月に早池峰山を訪れ植物採集を行い、カトウハコベを発見しています。牧野が早池峰山で新たに発見したのはこのカトウハコベだけです。

さて、早池峰山でよく知られているこちらの花。


2023年6月7日撮影

Primula macrocarpa Maxim.
須川長之助が「北日本の甚だ高い山」で採集したと思われる標本に基づき、マキシモヴィッチが1868年に発表しました。
この植物に1897年、和名を「ヒメコザクラ」と命名したのは牧野富太郎です。

雪解け後の早池峰山にミヤマキンバイと並び最も早く開く花の一つで、5月〜6月にかけて高山帯のあちこちで目を楽しませてくれるサクラソウの一種です。
のちに岩手県大東町の蛇紋岩地で発見されたことになっています(その標本はどこかにあるのでしょうか?)が、その後その場所では盗掘などで絶滅したと言われ、現在では早池峰山でしか見られない貴重な花です。環境省のレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類、いわてレッドデータブックではAランクに指定されています。



こちらは早池峰山の他の場所では花期を過ぎた中で、山頂直下に6月中旬まで雪が残るために7月に唯一開花が見られるヒメコザクラの株でした。
この数年でだんだん株数が増えてきたところでした。


2019年


2021年


2023年7月2日

なぜ過去形かと言うと、この株はおそらく盗掘により、失われてしまったからです。


2023年7月11日

この山頂直下の株は7月4日の午前中のごくわずかな時間に根ごと持ち去られたとみられています。
7月4日午前9時頃にこの一塊りの株が、すでに花が終わっているのを巡回中の自然公園保護管理員が確認しています。その数時間後にグリーンボランティアの方が、株ごとなくなっているのを見つけました。

山頂直下のヒメコザクラはここにしかないので長年早池峰に通っている人は毎年見ていました。
しかし、人の手により永久に失われてしまいました。残念です。

牧野富太郎はじめ多くの人によってその希少性を認められてきた早池峰山の植物は、現在何重もの法規制によって守られています。学術目的等で採取する場合には岩手県知事や文化庁長官の許可を得る必要があります。
2023年7月の時点で、早池峰山頂直下でヒメコザクラを根ごと採取できる許可は誰にも出ていません。つまりその行為は違法です。
早池峰山でヒメコザクラを盗掘した行為者は、自然公園法違反により6月以下の懲役または50万円以下の罰金、文化財保護法違反では50万円以下の罰金に処されます。また、岩手県希少野生動植物の保護に関する条例違反で、最高で1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。

すでに失われてしまった以上、盗人に何を言っても無駄なことでしょう。


牧野富太郎が早池峰山で1905年に発見し、その採集行のスポンサーであった加藤泰秋子爵の名を取って命名したカトウハコベ(詳しくは、ほしがらす通信2011年7月21日「人名を冠した花」を参照)も、2020年に盗掘された疑惑が持たれています。


2020年


2021年

石の上のわずかな土壌に根を張ったカトウハコベが、剥がされたようになくなっており、2020年にあった部分が、2021年には半分ほどの面積になっています。落石や強風で失われるような環境ではありません。
こちらも、足繁く早池峰に通われている方から2020年の秋に盗られたようだと情報提供を受けたものでした。
早池峰山では多くの愛好家が毎年、毎月、毎週、花を見て歩いています。盗掘現場を見られなくても、花が無くなったことにはすぐ気づきます。


近年、早池峰山の希少植物の情報流出については、登山SNSの登場が新たな懸念となっていました。
メジャーな登山SNSの一つのYAMAPでは、多くの人が高山植物の写真を投稿しています。そのほとんどに位置情報が付され、撮影場所をその人のマップ上で見られるようになっています。YAMAPでは、希少な高山植物の写真の投稿を禁止していますが、多くの人はそのことを知らないのではないでしょうか。中にはGPS情報を削除して写真を投稿している登山者もいますが、投稿の時系列などからだいたいの撮影場所が推測できます。
誰もが、山で出会った綺麗な花の写真を投稿して他者の共感を得たいでしょう。しかしそれにより、希少な野生植物の位置情報を悪意のある人物に提供してしまう可能性があります。
現に、悪意があるかどうかは別として、スマホの画面を見ながらうろうろと植物を探す様子の登山者をここ数年見かけるようになっています。
匿名で投稿でき誰もが見られるSNSへの高山植物の位置情報の投稿はやめて欲しいと思っています。
SNSの管理者も、投稿者に禁止行為をやめるよう、もっと積極的に促して欲しいと思います。

(注:このブログはいったい何人が読んでいるのかわかりませんが、希少性の高い植物については以前から載せていません)

牧野富太郎ゆかりの植物については、また機会を改めて紹介します(たぶん)。
昨年の今頃、早池峰山のほぼ全域でハヤチネウスユキソウの頭花と苞葉が切断されて失われるという事件が起きました。

ほしがらす通信 2019.8.20  新たな脅威


その数は確認されただけでも700本を超えました。 2019年8月14日

被害の規模と時間的・空間的な拡がりから、なんらかの動物によるものと推測されました。

ほしがらす通信 2019.9.5 ふわふわマニア?

その後、被害はやはり固有種のナンブトウウチソウに拡がりました。


花穂の失われたナンブトウウチソウ 2019年9月14日

ナンブトウウチソウの前に仕掛けられた自動カメラにネズミが写り、こちらはネズミによるものとの可能性が指摘されました。

ほしがらす通信 2019.10.4 ふわふわのその後


そういうわけで今年はどうなっているのか気になっていましたが、今のところ同様の現象は起きていないようです。


2020年8月14日


2020年8月14日


去年、初めに目撃があった場所。とりあえず無事です。2020年8月14日


去年はこのような少し枯れかかった時期の花が多く切り取られたのですが、今年は無事です。
今後、やはり去年同様にナンブトウウチソウの花穂も被害を受けることがないか観察していきたいと思います。


さて、去年はハイマツの実がまったく不作でしたが、今年は豊作です。(写真はすべて2020年8月14日)


ハイマツの球果


ハイマツの実はホシガラスの好物。


今年はホシガラスがハイマツ帯で球果をついばむ姿がよく見られます。


こうしたホシガラスの食べ残しからまたハイマツが増えていくと言われています。


あとちょっと、夏の終わりの花を。(写真はすべて2020年8月14日)


タカネナデシコ


ナンブトラノオ


オヤマソバ


ミヤマアキノキリンソウ


キンロバイはだいぶ長く咲いていた。


ミヤマヤマブキショウマの実

2019.08.20 新たな脅威
8月に入ってから今まで、早池峰山で一番の話題はハヤチネウスユキソウに大量の頭なし個体が発生していることです。

ハヤチネウスユキソウの頭(頭花と苞葉からなる、いわゆる「花」のように見える部分を、便宜的にそう呼んでおきます)が切断されているものが最初に見つかったのは7月20日でした。地元山岳会の会長さんが見つけ、筆者も同日確認。


7月20日 小田越コース

これは小田越コース七合目〜八合目間の登山道脇に一つだけ発見されました。切断面が鋭利な刃物で切断されたように見え、人が盗採したものではないかと思われました。
人による盗採であれば、自然公園法・森林法・文化財保護法など複数の法律に違反する行為です。


次にハヤチネウスユキソウに切断が見つかったのは8月3日。小田越コース五合目のすぐ下で、同僚の自然公園保護管理員が登山道脇に2個体を発見。翌4日、別の管理員は3個体と認識。筆者はそれを聞き8月7日に確認に行きました。

するとその場所には、こちらに1本、あちらに2本…と、数えていくと約30m×30mほどの範囲に、かれこれ50本以上の頭なしハヤチネウスユキソウが見つかりました。これほどの規模のものとは聞いていなかったので驚きました。取られた頭の部分は99%以上、持ち去られて見当たりません。


8月7日


8月7日


8月7日


8月7日


8月7日


8月7日

これらの頭なし個体の分布を見て、私は(これは人ではないのでは…?)と感じました。違法行為にしては目立ち過ぎる場所で取られていることと、その選択のランダムさから人間らしくない気がしたのです。人でなければ動物ということになりますが、一体何が…? 切り口は鋭利な切断面ではなく、ちぎられたような跡です。

最近早池峰山で植物への食害を広げている動物にニホンジカがいます。早池峰山のニホンジカは夏の間五合目より標高の高い場所まで上がっていますので、可能性はあります。しかし、これまでハヤチネウスユキソウにニホンジカらしい食痕は確認されていませんでした。8月7日に確認した現場では、ハヤチネウスユキソウのみが損傷を受けていて、これまでの傾向からシカが好むと思われるナンブトウウチソウや他の植物には全く被食痕が認められなかったのです。それに、付近にはニホンジカらしい目立った足跡や新しい糞はありませんでした。
犯人は人間なのか動物なのか、一体何者か…?私は頭にたくさんの疑問符を浮かべながら山を下りました。

次の報告は8月11日。やはり自然公園保護管理員が、今度は閉鎖中の河原坊コースの登山道脇で、ハヤチネウスユキソウの頭がないものを複数見つけました。私は翌12日に現場を確認に行き、標高1500m〜1515mの範囲の登山道脇に56本まで写真に撮って数えました。


8月12日 


8月12日 


8月12日 


8月12日 

そこからやや標高を下げた頭垢離と呼ばれる沢沿いの斜面には、昨年から東北森林管理局が設置した防鹿柵が立っています。昨年50mの長さのネットで高山植物群落を囲い、今年はそれを拡大して150mとしました。


8月12日 東北森林管理局の柵

その柵の外側に、ハヤチネウスユキソウの上部のないものがやはり複数本ありました。



そして…森林管理局のネットの下には高さ40cmほどの隙間ができていて…




柵の中にも頭のないハヤチネウスユキソウがありました。

ここに至って、一連のハヤチネウスユキソウの大量切断の原因は人間によるものではないとの確信を私は得ました。河原坊コースは現在閉鎖中です。また、コース上でシカを監視するセンサーカメラに人は写っていませんでした。さらに囲われた柵の中の切断個体。

そして、小田越コースでの切断も、一度に行われたのではなく日を追って増えたことがわかったのです。
8月7日に私が五合目の手前で50本以上を数えた時、三合目〜四合目あたりのハヤチネウスユキソウは無事でした。それが、8月11日にそこを通った管理員は切断個体の複数あることを発見したのです。

8月14日、私は8月7日には無事だった三合目〜四合目のエリアで多数の頭なし個体があることを確認しました。


8月14日 小田越コース三合目

そして8月7日に確認した五合目の下へ行ってみると、7日には無事だった株で、11本のうち10本の頭が新たになくなっているのに気づきました。


これがその株群です。


幸い、8月7日に撮った写真の後方に写っていました。


こちらが8月14日。

これらは、8月7日から14日の間に損傷を受けたことになります。人間が、これほどの規模で繰り返し盗採を行うことは可能性として低いものと考えられます。

8月15日、台風が近づく強風の中、私は小田越コースを山頂まで往復しました。その時、七、八、九合目のハヤチネウスユキソウに異常は認められませんでした。

8月18日。台風一過で青空が広がり登山者も多数訪れました。私は七合目と八合目間に数株の頭なしを認め、鉄梯子を登り、九合目の手前、標高約1870mの登山道脇のハヤチネウスユキソウ群落を観察しました。
そして、ここにもついに被害が及んだのを確認しました。


8月18日


8月18日


8月18日

その数60本以上、この5m×10mほどの範囲に開花した個体全体のおそらく半数以上は無くなっていました。

私が小田越コースと河原坊コースの登山道に近い場所でざっと確認しただけで、頭のないハヤチネウスユキソウは合計で200本以上になります。これは、たったこの2週間の間に起きたことなのです。

ハヤチネウスユキソウは多年草であるため、種子を含む花の部分が失われてもすぐに絶えることはありません。しかし、同じ動物により毎年被害を受ければ、次第に個体数は減ってゆくでしょう。

仮にこれがニホンジカによる食害であれば事態は深刻と言わざるを得ません。これまでシカがハヤチネウスユキソウを食べなかったからと言って決して食べないとは言えません。早池峰山で、シカは毒草とされるコバイケイソウを好んで食べています。今起きていることは全く新しい事態かもしれないのです。登山口ではすでに数種類の植物がシカの食害により姿を消しつつあります。シカがハヤチネウスユキソウを食べることを覚えてしまったら…来年以降、これまでのような悠長な対策を取っていては取り返しのつかないことになります。早池峰山でハヤチネウスユキソウが見られなくなる、そんな日が数年の内にやって来るかもしれないのです。

早池峰山の貴重な自然を代表するハヤチネウスユキソウ。その大規模な損傷を、放置したままにはできません。早池峰山を保護する関係者は一日も早く原因を突き止め、対策を考える必要があります。現在、岩手県はシカ監視用に設置しているセンサーカメラを利用して原因を特定するために動き始めています。

追記:
8月21日に新たに、山頂から稜線を西へ向かう縦走コース上(アキラケルンまで)の登山道脇3箇所で計101本の頭なしハヤチネウスユキソウを確認しました。被害の広がりに驚いています。


8月21日 縦走コースで

追記2:
8月24日、小田越コース九合目から剣ヶ峰方面の稜線上の登山道わきで、歩きながら数えて76本の頭なしハヤチネウスユキソウを確認しました。その辺りでは花茎の立った個体の7割ほどが失われているように見えました。


8月24日 九合目〜剣ヶ峰間の稜線上で

2019.07.30 7月スナップ
7月が終わる。
とりとめもなく、写真を貼ります。数字は日付。


巣立ったばかりのカケスの子が三つ四つ、危なっかしそうに枝にいた。 7/8


薬師岳のマイヅルソウ 7/8


オホーツク海に高気圧が張り出して、秋みたいな空があった。 7/8


説明のいらない、ハヤチネウスユキソウ 7/14


山頂直下のウコンウツギ 7/14


マルバシモツケ 7/16


ハヤチネウスユキソウが切られたらしい。 7/20


ヨツバシオガマ 7/20


アオモリトドマツの球果 7/21


最後のチングルマ群 7/21


晴/曇 7/21


ハクサンフウロ 鶏頭山にて 7/21


シカ柵した。 7/22



イブキジャコウソウ 7/26


ナンブトウウチソウも咲き始めた。 7/26


ナンブトラノオ 7/26


ホシガラスは過去を振り返るんだろうか。 7/26