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2021年8月22日(画面の日付はカメラの故障により誤り)早池峰山南面標高1614m。
ニホンジカの若いオスが約30分間滞在し植物を食べ続ける。

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2021年8月22日(カメラの故障により日付がずれています)、早池峰山南面標高1614m付近。
ニホンジカ8頭(不明1、若オス7)が記録される。
周辺の草原では一部裸地化が進行している。

何年も早池峰山に通っている方は気づいていると思いますが、小田越コースや薬師岳の樹林帯では、ここ数年で林床の植生が著しく変化しています。

小田越登山口から一合目までの30分ほどの樹林帯歩き。
かつてこの登山道の両脇には様々な植物があって目を楽しませてくれました。
いま、それらの多くが目に付かなくなりました。思い出せるだけでも、フキ、ショウジョウバカマ、ミヤマカラマツ、モミジカラマツ、ゴヨウイチゴ、カニコウモリ、数種のセリ科植物…を、今年は見ることができませんでした。
この樹林に夏の間常駐しているニホンジカが数年のうちに食べてしまったからです。
一昨年、このブログでカニコウモリが来年にはなくなると書きましたが、実際になくなりました。


2018/6/11 まだカニコウモリがあります。


2019/8/14 カニコウモリが食害を受けています。フキと同じで、葉は食べずに茎を食べていました。
(2018年の写真の場所はこの写真では奥に写っている場所になります)


同上


2021/9/10 カニコウモリは見当たらなくなりました。(以下、しばらく同日)


よく見ると完全になくなったわけではなく、ごく小さな葉が残っています。


その大きさは一枚がボールペン3分の1ほどの長さしかありません。


こちらはもっとちっぽけです。お話にならない大きさです。これで光合成を?

植物は一度シカに食べられると次からは体を小さくして生えてくるようです。気をつけて地表を見ると、同じように小さくなってしまった植物を見つけることができます。


春にさっぱり花を見なかったショウジョウバカマは小さくなって生き延びていました。


カラマツソウの類かと思われます。


エゾノヨツバムグラです。


イワオトギリ…

いずれもボールペンの先ほどの大きさしかありません。すべてミニチュアみたいになってしまいました。
これでは足元をよく見なければ目につくはずがありません。小さくなっただけではなく姿を消した株も多いことでしょう。


去年、登山道沿いにヒロハテンナンショウというマムシグサの仲間がかたまって花を咲かせました。なかなか見事でした。


2020/7/2


ところが、ほどなくしてシカに食べられてしまいました。 2020/7/24


同上


テンナンショウ属には毒があると言われていますが、平気なのでしょうか。

今年、それらの株は葉を出しましたが、全体に小ぶりになっていました。


2021/06/15

ヒロハテンナンショウは希少種に指定されてはいませんが、また食べられると絶えると思い柵で囲いました。


2021/7/9


2021/9/10 食べられずに済みましたが、結局これ以上大きくはなりませんでした。


現在、小田越の樹林帯(およそ標高1250m〜1400m)の下層植生は、もともと優占種であったササに、他の植物がなくなり目立つようになったイネ科(シカが優先して食べないことと成長点が地表近くにあるため残りやすい)などの中に所々で裸地化した部分が見える状況になっています。


2021/7/2

この状態は年々進行していて、シカがこの樹林にいる限り元に戻ることはないと思われます。
そして今後はだんだんにササも無くなっていくと予想されます。
というのは、山麓の標高の低い地域ではすでにササすら失われているからです。


2021/5/22 県道25号の花巻側、標高650m付近。

この辺りには冬もシカがいてササを食べているので、5月の新緑の季節に林床には緑の草もササもなく真っ茶色という状況になっています。
これが小田越樹林帯の林床の数年後の姿かもしれません。


前回、植生保護柵の効果について書きました。河原坊コースの下部では4年目、小田越コースや薬師岳周辺では3年目になりました。確かに柵の中の植生は保護されるのですが、今年は柵の外との差が顕著に観察できました。4年の間に柵の外側にはかつてあった植物がほとんど見えなくなってしまいました。

今年、岩手県が設置した植生保護柵にシカが絡まって死ぬということが4件起きました。1件は若いオスのツノが、あと3件は仔鹿の首がネットにからまったものでした。
原因はネットの網目の大きさや張り方にも求められますが…ネット自体は4年間同じものを使っているのに、なぜ今年4件も起きたのかということです。

二つの可能性が考えられます。
一つは、柵の外に食べるものが少なくなっているのではないかということです。
つまり、「ネットに首を突っ込んででも食べたい草が柵の中にあった」ということ。
もう一つの可能性はシカの個体数じたいが増えているのではないかということです。
その両方かもしれません。

岩手県や国(森林管理局)のシカ対策が具体的に始まって4年目となります。県、国とも対策として植生保護柵の設置とシカの捕獲を行っていますが、今年の状況を鑑みるに今の対策だけではまだまだ不十分だと言わざるを得ません。
現在行われている植生保護柵の設置は緊急性の高い貴重な植生を部分的に守るという限定的な対策です。
そもそも早池峰山域にシカを侵入させない遮断柵の設置が同時に必要ではないでしょうか。
捕獲に関してはこれまで冬季の越冬地での捕獲が中心でしたが、今年初めて森林管理局により夏季に罠捕獲が実施されました。
これを国でも県でもいいので時間的にも空間的にも拡大し、雪解けの時期から秋まで、さらに多くのシカの生息場所で行うべきでしょう。
どちらにも大変お金がかかります。

おりしも今月は岩手県議会が開かれて来年度の予算の話をしているかと思いますが…

岩手県の令和3年度の早池峰山のシカ対策の予算はいったいどれだけだったのかというと…


岩手県 令和3年度予算関係資料


よく分かりませんでした。シカ・イノシシ対策ということで全県いっしょくたで1億6650万円ということのようです。


ところで、岩手県は ILC(国際リニアコライダー)推進にまだ1億円も予算をとっていますね(令和3年度)。
このような大規模な環境破壊を生む、しかも誘致がほぼ絶望的になったものにいつまで県民の税金をつぎ込むのか、いい加減にやめてもらいたいですね。
岩手県で ILCを推進している人のほとんどは多分、宇宙物理学に興味があるのではなくその過程で発生するお金に興味があるだけです。それと引き換えに本当に地盤が安定しているかどうかも不確実な北上山地に大穴を開けて環境を破壊し(地下水のことを考えていますか?また、掘り出した土はどこの谷を埋めて盛り土しますか?)、稼働中には放射性物質が発生、またその稼働が終わった後には廃墟が残り人は去る。それでいいのですか?
以前、岩手県は「いわて環境王国」などとのたもうていたが、その豊かな自然を目先の金のために一度失えば取り返しはつかないのです。
私は前回の県議会選挙の時、ILCに反対する候補がいないものかと選挙公報を目を皿にして読みましたが誰もいなかったので投票先がなくて困りました。

岩手県はILC予算を全部やめてそのお金で早池峰山をまるっと柵で囲ってください。
そしてシカの捕獲にもっとお金をつぎ込む。
実現しそうもない、実現しても県土を破壊するくだらない夢に税金をつぎ込んで目の前の危機を見過ごしている場合ではありません。
… ILCで税収が増えたら早池峰山にも潤沢な予算が? 間に合わないね。

このままでは早池峰山は本当にハゲ山になります。
世界中でここ早池峰山にしかない貴重な生態系が失われようとしています。
夏休みの宿題は最終日までためておくタイプのほしがらす通信です。
早池峰山は秋の気配が漂い、ニホンジカのオスの繁殖期のコールも始まりました。

前回の記事の最後の画像は、河原坊登山口のオオイタドリがシカに食われてボウズになっている写真でした。
そこにセンサーカメラを置いてみると、日夜シカが出没している様子が写っていました。


3頭同時に写っています。 2021/8/19 17:56


これは子どもみたいですね。 2021/8/7 0:55

彼らは人がいる時間は姿を見せませんが、これが早池峰山の日常風景なのです。今年、小田越登山口付近では日中に逃げずに登山者のカメラに収まるシカも見られたようです。
早池峰山生まれのシカは数年前には見られました。メスは生まれた翌年には繁殖可能ということですので、母子ともに早池峰山生まれの親子もすでにいるのではないでしょうか。


さて、2020年と今年2021年の早池峰山シカ対策のうち、防鹿柵について簡単に振り返ります。

2018年に始まった早池峰山での防鹿柵(植生保護柵)設置。3年目の2020年は、前年の柵を延長する形で柵が設置され、柵の総延長は東北森林管理局によるものが740m、岩手県自然保護課が750mとなり、合わせて1490mになりました。柵の設置は5月〜6月(森林管理局)・6〜7月(県)から始められ、前年より効果が上がったと考えられます。
2021年は、2020年と同じ場所に加えて東北森林管理局でさらに50mほど追加されました。


早池峰山南麓の森林管理局の柵を上空から見るとこんな感じで、グーグルマップでも確認できます。
おひまな方は探してみてはいかがでしょう。

今年、2021年の柵設置(外して地面に置いてあったネットを張り直す)作業は、東北森林管理局が5月20日、岩手県自然保護課が5月28日に開始しました。シカは5月中旬には戻って来ていますので、早目に設置されてよかったと思います。
(筆者は今年4月21日に小田越の西側標高1200m付近の県道沿い林内でシカ1頭を目撃しました。)


5月28日、小田越コース登山道沿いの柵設置。主にオサバグサを保護しています。


薬師岳の登山道沿いにもオサバグサを保護する柵が設けてあります。


オサバグサの花期に確認して見ると、効果は顕著に現れていました。


柵の中ではオサバグサが咲いていますが、


登山道を挟んで向かい側はほとんど裸地化してしまっています。(以上、2021/6/7)


ここは南面東側の県設置の柵です。柵の中ではチングルマが咲き誇っていました。 2021/6/20


こちらは通年張りっぱなしの柵です。


今年は5月12日にはシカが写っていました。


柵があるおかげで今年もマルバキンレイカが開花しました。 2021/7/30


柵がなければ今頃は柵の周囲と同じくイネ科しか残っていないでしょう。 2021/8/28


いま早池峰山では、シカはよほど歩きづらいか人目につきやすいところ以外はどこにでもいて、居心地のよいところでは首の届く限りの範囲にある食べやすい植物から食べていると思われます。

今年も登山道沿いでは多くの美しい花の姿を見ることができました。(いずれも2021/7/2)






しかしそのうち、私たちは囲われた柵の中にしかこうした花を見られなくなるのかもしれません。

(つづく)


2019年度までのシカ対策は以下の記事をご覧ください。またはカテゴリ「シカ」でシカに関連する記事を見ることができます。

ほしがらす通信 2018/8/29 「やっとネットもっとやって」
ほしがらす通信 2018/9/9 「柵のあとさき」
ほしがらす通信 2018/12/31 「今年のまとめと来年の展望」
ほしがらす通信 2020/3/8 「2019年度のシカ柵事業」
早池峰のシカ ’21 ①

あっという間に7月になってしまいました。
早池峰山ではハヤチネウスユキソウが見頃を迎えていますが、今回は別の話。

今は閉鎖中の河原坊コースで6月の花と言えばタニウツギでした。


タニウツギ 2021.6.20 河原坊〜小田越間の県道沿いで

かつて河原坊コースでは、登山口からタニウツギのみずみずしいピンクの花に迎えられて、どうどうと鳴る水音を聞きながら沢沿いの道を詰めて行くのが初夏の早池峰登山の風景でした。

そのタニウツギの花は、いま河原坊周辺でほとんどみられなくなってしまいました。
ニホンジカによる食害のためです。

IMG_0359.jpg
2021.6.29
河原坊登山口から100mほどの登山道(自然公園保護管理員は現況確認のため立ち入ることがあります)。
道の両脇の細い低木がタニウツギです。花はおろか葉もほとんどなく、枯れたものも多くあります。
林全体が高さ180cmほどを境に、それより低いところには植物の葉がなくなり、高い方にだけ葉の緑が見られるようになっています。
シカの口が届く高さではっきりと分かれる、いわゆるブラウジングラインとかディアラインと呼ばれる現象です。
林床にはシカがあまり好まないイネ科やカヤツリグサ科の植物ばかりが目立ちます。
こうした状況は、河原坊では2016年頃から顕著になり、年々その度合いは進んでいます。


ここからは河原坊登山口付近で、3年前の2018年に撮った写真と今年撮った写真を比較してみます。
2018年は、早池峰山地域へのシカの侵入がはじまって数年経ち、登山口付近で食害が急激に増加したように見えた2015〜2016年から3年、高山帯への侵入も始まり、早池峰山で初めてシカの食害から植物を保護する柵が設置された年です。

IMG_1750.jpg
河原坊登山口:2018年6月25日(クリックするとやや大きい画像が開きます)
河原坊登山道は2016年から通行禁止になっています。
バリケードの手前と奥にオオイタドリがまだ残っています。
向かって右手にはわずかにタニウツギが残っています。
足元ではオニシモツケやセリ科植物はすでになくなっていましたが、ヨモギやノコンギクなど、シカがこのころはまだあまり食べなかったキク科植物が生えています。

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同:2021年6月29日
イタドリがほとんど姿を消し、右手のタニウツギは登山道を塞ぐロープに囲まれた一本のみが葉を残しています。
キク科も見えず、イネ科やカヤツリグサ科の植物が優勢になり、落ち葉に覆われた裸地が広がり始めています。

IMG_1752.jpg
登山口手前:2018年6月25日
オオイタドリが生え、キク科植物、セリ科植物、オニシモツケ、矮化したフキ、トリアシショウマ、オオバコ…などが地表を覆っています。

IMG_0343.jpg
同:2021年6月29日
オオイタドリが消え(ごく背丈の低いものはありますが)、キク科やセリ科、オニシモツケ、トリアシショウマなどはいずれも背丈が5cm以下しかありません。
草刈りをしたわけではありません。

IMG_1753.jpg
登山口南西側:2018年6月25日
まだ残っていたタニウツギが咲いています。

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同:2021年6月29日
タニウツギはシカの口が届かない高さにのみ葉を残し、地表ではイネ科、カヤツリグサ科が目立ちます。

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早池峰総合休憩所わき:2018年6月25日
フキ、セリ科、トリアシショウマなどが見えます。

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同:2021年6月29日
フキは姿を消し、セリ科は小さくなったものがわずかに残っています。イネ科のススキ?が目立ちます。
この法面ではラン科のノビネチドリが姿を消しました。

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早池峰総合休憩所入り口わき:2018年6月25日
まだフキが茂っています。セリ科やキク科も見えます。

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同:2021年6月29日
フキは跡形もありません。ヨモギなどのキク科も小さくなっています。ススキが優勢です。


2018年以来、早池峰山では岩手県と東北森林管理局によりシカの食害を防ぐ防鹿柵が設置され、年々その範囲は少しづつですが拡大されてきました。柵の効果は明らかで、柵の内側では植生が回復したり希少植物がシカの食害を受けずに済んだりしています。
しかし柵で囲われた面積は早池峰山地域全体からすればごくわずかなものです。
冬季を中心に山麓での捕獲も行われていますが、夏季の早池峰山地域へのシカの侵入は止まっておらず、シカが歩きやすい場所で防鹿柵のない場所では食害は続いています。

次回以降、昨年度と今年度に行われているシカ対策と効果についてふれてみたいと思います。

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オオイタドリ 2021.6.29 河原坊登山口


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