2023.09.27
ヒメスズムシソウの盗掘
2023年7月22日、早池峰山の1700m付近で、環境省絶滅危惧ⅠA類、国内希少野生動植物種、いわてレッドデータブックAランクに指定されているラン科の植物ヒメスズムシソウが盗掘されているのを巡回中の自然公園保護管理員(筆者)が発見しました。ヒメスズムシソウは早池峰山では2018年に初めて生息が確認(筆者による)された植物で、ほかでは栃木県、長野県、山梨県でしか確認されていません。今回、早池峰山ではこの場所に生息していた8株すべてが根こそぎ持ち去られました。
前日には早池峰グリーンボランティアの方が生息を確認しており、盗掘は7月21日の午後から22日の夕方までの間に行われたとみられています。
早池峰山でのヒメスズムシソウの盗掘は、自然公園法違反(特別保護地区内での許可のない植物採取)、文化財保護法違反(特別天然記念物の無許可の現状変更および毀損)、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法・生きている個体の採取の禁止)違反、森林法違反(森林窃盗)にあたり、行為を行なった者にはそれぞれの法律に則った懲役や罰金が科されます。
岩手県では、ヒメコザクラの盗掘事案と併せて警察に相談しています。

盗掘前 2023年7月11日

盗掘後 2023年7月22日
前日には早池峰グリーンボランティアの方が生息を確認しており、盗掘は7月21日の午後から22日の夕方までの間に行われたとみられています。
早池峰山でのヒメスズムシソウの盗掘は、自然公園法違反(特別保護地区内での許可のない植物採取)、文化財保護法違反(特別天然記念物の無許可の現状変更および毀損)、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法・生きている個体の採取の禁止)違反、森林法違反(森林窃盗)にあたり、行為を行なった者にはそれぞれの法律に則った懲役や罰金が科されます。
岩手県では、ヒメコザクラの盗掘事案と併せて警察に相談しています。

盗掘前 2023年7月11日

盗掘後 2023年7月22日
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2023.07.12
あの人ゆかりの早池峰の植物 そして盗掘
今期のNHK朝ドラ「らんまん」の主人公のモデルとなり、何かと話題に事欠かない牧野富太郎ですが、早池峰山の植物にも大いに関わりがあります。
現在知られている早池峰山の植物の多くを最初に世に知らしめたのは、「らんまん」にも登場したロシアの植物学者マキシモヴィッチでした。とは言え、マキシモヴィッチ本人は早池峰山には登っておらず、紫波出身の須川長之助が採集した標本を元にロシアで発表していました。
牧野富太郎は、主にマキシモヴィッチが発表した植物に和名をつけるという形で早池峰山の植物研究史に登場します。また、陸前高田出身の鳥羽源蔵など複数の人が早池峰山で採集し牧野に送った標本を元に牧野が公に発表したものもあります。
そして牧野自身は1905年8月に早池峰山を訪れ植物採集を行い、カトウハコベを発見しています。牧野が早池峰山で新たに発見したのはこのカトウハコベだけです。
さて、早池峰山でよく知られているこちらの花。

2023年6月7日撮影
Primula macrocarpa Maxim.
須川長之助が「北日本の甚だ高い山」で採集したと思われる標本に基づき、マキシモヴィッチが1868年に発表しました。
この植物に1897年、和名を「ヒメコザクラ」と命名したのは牧野富太郎です。
雪解け後の早池峰山にミヤマキンバイと並び最も早く開く花の一つで、5月〜6月にかけて高山帯のあちこちで目を楽しませてくれるサクラソウの一種です。
のちに岩手県大東町の蛇紋岩地で発見されたことになっています(その標本はどこかにあるのでしょうか?)が、その後その場所では盗掘などで絶滅したと言われ、現在では早池峰山でしか見られない貴重な花です。環境省のレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類、いわてレッドデータブックではAランクに指定されています。

こちらは早池峰山の他の場所では花期を過ぎた中で、山頂直下に6月中旬まで雪が残るために7月に唯一開花が見られるヒメコザクラの株でした。
この数年でだんだん株数が増えてきたところでした。

2019年

2021年

2023年7月2日
なぜ過去形かと言うと、この株はおそらく盗掘により、失われてしまったからです。

2023年7月11日
この山頂直下の株は7月4日の午前中のごくわずかな時間に根ごと持ち去られたとみられています。
7月4日午前9時頃にこの一塊りの株が、すでに花が終わっているのを巡回中の自然公園保護管理員が確認しています。その数時間後にグリーンボランティアの方が、株ごとなくなっているのを見つけました。
山頂直下のヒメコザクラはここにしかないので長年早池峰に通っている人は毎年見ていました。
しかし、人の手により永久に失われてしまいました。残念です。
牧野富太郎はじめ多くの人によってその希少性を認められてきた早池峰山の植物は、現在何重もの法規制によって守られています。学術目的等で採取する場合には岩手県知事や文化庁長官の許可を得る必要があります。
2023年7月の時点で、早池峰山頂直下でヒメコザクラを根ごと採取できる許可は誰にも出ていません。つまりその行為は違法です。
早池峰山でヒメコザクラを盗掘した行為者は、自然公園法違反により6月以下の懲役または50万円以下の罰金、文化財保護法違反では50万円以下の罰金に処されます。また、岩手県希少野生動植物の保護に関する条例違反で、最高で1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
すでに失われてしまった以上、盗人に何を言っても無駄なことでしょう。
牧野富太郎が早池峰山で1905年に発見し、その採集行のスポンサーであった加藤泰秋子爵の名を取って命名したカトウハコベ(詳しくは、ほしがらす通信2011年7月21日「人名を冠した花」を参照)も、2020年に盗掘された疑惑が持たれています。

2020年

2021年
石の上のわずかな土壌に根を張ったカトウハコベが、剥がされたようになくなっており、2020年にあった部分が、2021年には半分ほどの面積になっています。落石や強風で失われるような環境ではありません。
こちらも、足繁く早池峰に通われている方から2020年の秋に盗られたようだと情報提供を受けたものでした。
早池峰山では多くの愛好家が毎年、毎月、毎週、花を見て歩いています。盗掘現場を見られなくても、花が無くなったことにはすぐ気づきます。
近年、早池峰山の希少植物の情報流出については、登山SNSの登場が新たな懸念となっていました。
メジャーな登山SNSの一つのYAMAPでは、多くの人が高山植物の写真を投稿しています。そのほとんどに位置情報が付され、撮影場所をその人のマップ上で見られるようになっています。YAMAPでは、希少な高山植物の写真の投稿を禁止していますが、多くの人はそのことを知らないのではないでしょうか。中にはGPS情報を削除して写真を投稿している登山者もいますが、投稿の時系列などからだいたいの撮影場所が推測できます。
誰もが、山で出会った綺麗な花の写真を投稿して他者の共感を得たいでしょう。しかしそれにより、希少な野生植物の位置情報を悪意のある人物に提供してしまう可能性があります。
現に、悪意があるかどうかは別として、スマホの画面を見ながらうろうろと植物を探す様子の登山者をここ数年見かけるようになっています。
匿名で投稿でき誰もが見られるSNSへの高山植物の位置情報の投稿はやめて欲しいと思っています。
SNSの管理者も、投稿者に禁止行為をやめるよう、もっと積極的に促して欲しいと思います。
(注:このブログはいったい何人が読んでいるのかわかりませんが、希少性の高い植物については以前から載せていません)
牧野富太郎ゆかりの植物については、また機会を改めて紹介します(たぶん)。
現在知られている早池峰山の植物の多くを最初に世に知らしめたのは、「らんまん」にも登場したロシアの植物学者マキシモヴィッチでした。とは言え、マキシモヴィッチ本人は早池峰山には登っておらず、紫波出身の須川長之助が採集した標本を元にロシアで発表していました。
牧野富太郎は、主にマキシモヴィッチが発表した植物に和名をつけるという形で早池峰山の植物研究史に登場します。また、陸前高田出身の鳥羽源蔵など複数の人が早池峰山で採集し牧野に送った標本を元に牧野が公に発表したものもあります。
そして牧野自身は1905年8月に早池峰山を訪れ植物採集を行い、カトウハコベを発見しています。牧野が早池峰山で新たに発見したのはこのカトウハコベだけです。
さて、早池峰山でよく知られているこちらの花。

2023年6月7日撮影
Primula macrocarpa Maxim.
須川長之助が「北日本の甚だ高い山」で採集したと思われる標本に基づき、マキシモヴィッチが1868年に発表しました。
この植物に1897年、和名を「ヒメコザクラ」と命名したのは牧野富太郎です。
雪解け後の早池峰山にミヤマキンバイと並び最も早く開く花の一つで、5月〜6月にかけて高山帯のあちこちで目を楽しませてくれるサクラソウの一種です。
のちに岩手県大東町の蛇紋岩地で発見されたことになっています(その標本はどこかにあるのでしょうか?)が、その後その場所では盗掘などで絶滅したと言われ、現在では早池峰山でしか見られない貴重な花です。環境省のレッドリストでは絶滅危惧ⅠA類、いわてレッドデータブックではAランクに指定されています。

こちらは早池峰山の他の場所では花期を過ぎた中で、山頂直下に6月中旬まで雪が残るために7月に唯一開花が見られるヒメコザクラの株でした。
この数年でだんだん株数が増えてきたところでした。

2019年

2021年

2023年7月2日
なぜ過去形かと言うと、この株はおそらく盗掘により、失われてしまったからです。

2023年7月11日
この山頂直下の株は7月4日の午前中のごくわずかな時間に根ごと持ち去られたとみられています。
7月4日午前9時頃にこの一塊りの株が、すでに花が終わっているのを巡回中の自然公園保護管理員が確認しています。その数時間後にグリーンボランティアの方が、株ごとなくなっているのを見つけました。
山頂直下のヒメコザクラはここにしかないので長年早池峰に通っている人は毎年見ていました。
しかし、人の手により永久に失われてしまいました。残念です。
牧野富太郎はじめ多くの人によってその希少性を認められてきた早池峰山の植物は、現在何重もの法規制によって守られています。学術目的等で採取する場合には岩手県知事や文化庁長官の許可を得る必要があります。
2023年7月の時点で、早池峰山頂直下でヒメコザクラを根ごと採取できる許可は誰にも出ていません。つまりその行為は違法です。
早池峰山でヒメコザクラを盗掘した行為者は、自然公園法違反により6月以下の懲役または50万円以下の罰金、文化財保護法違反では50万円以下の罰金に処されます。また、岩手県希少野生動植物の保護に関する条例違反で、最高で1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
すでに失われてしまった以上、盗人に何を言っても無駄なことでしょう。
牧野富太郎が早池峰山で1905年に発見し、その採集行のスポンサーであった加藤泰秋子爵の名を取って命名したカトウハコベ(詳しくは、ほしがらす通信2011年7月21日「人名を冠した花」を参照)も、2020年に盗掘された疑惑が持たれています。

2020年

2021年
石の上のわずかな土壌に根を張ったカトウハコベが、剥がされたようになくなっており、2020年にあった部分が、2021年には半分ほどの面積になっています。落石や強風で失われるような環境ではありません。
こちらも、足繁く早池峰に通われている方から2020年の秋に盗られたようだと情報提供を受けたものでした。
早池峰山では多くの愛好家が毎年、毎月、毎週、花を見て歩いています。盗掘現場を見られなくても、花が無くなったことにはすぐ気づきます。
近年、早池峰山の希少植物の情報流出については、登山SNSの登場が新たな懸念となっていました。
メジャーな登山SNSの一つのYAMAPでは、多くの人が高山植物の写真を投稿しています。そのほとんどに位置情報が付され、撮影場所をその人のマップ上で見られるようになっています。YAMAPでは、希少な高山植物の写真の投稿を禁止していますが、多くの人はそのことを知らないのではないでしょうか。中にはGPS情報を削除して写真を投稿している登山者もいますが、投稿の時系列などからだいたいの撮影場所が推測できます。
誰もが、山で出会った綺麗な花の写真を投稿して他者の共感を得たいでしょう。しかしそれにより、希少な野生植物の位置情報を悪意のある人物に提供してしまう可能性があります。
現に、悪意があるかどうかは別として、スマホの画面を見ながらうろうろと植物を探す様子の登山者をここ数年見かけるようになっています。
匿名で投稿でき誰もが見られるSNSへの高山植物の位置情報の投稿はやめて欲しいと思っています。
SNSの管理者も、投稿者に禁止行為をやめるよう、もっと積極的に促して欲しいと思います。
(注:このブログはいったい何人が読んでいるのかわかりませんが、希少性の高い植物については以前から載せていません)
牧野富太郎ゆかりの植物については、また機会を改めて紹介します(たぶん)。
2022.12.31
2022年振り返り(シカ以外)
2022年も最後の日になって、やっと今年のふりかえりをしたいと思います。今年の「ほしがらす通信」はこれを含めてわずか記事3本。もはや季刊以下です。
山開きの前日に登山者がクマに襲われた衝撃から始まったシーズンでしたが、その後クマによる事故はありませんでした(県道での目撃は何件かありました)。それから日々色々あったのですが、特に記憶に残っていることを拾い出してみたいと思います。
①サンカヨウは早池峰でもう見られない。
7月中旬に早池峰山に来たお客さんがある花を見たいと仰るので何かと思ったらサンカヨウだと言う。サンカヨウ?珍しくもない…早池峰山の固有種でも希産種でもないし。そもそも7月にはもう花は終わっていますよ。と思ったがはて、最近花も実も見てないような。花は終わっても青い実が生っているのを見てもよさそうなものを。
それから早池峰山の小田越コース一合目までの樹林帯や薬師岳の樹林帯を歩くときに探してみたが、ない。おそらくこの数年でシカに食べられてしまったのだろう。サンカヨウが生えているような亜高山帯の森林の林床はシカの食害が広がり極端に植生が単純化している。もう早池峰山域でサンカヨウは見られないのかもしれない。
ほかにも見なくなった植物はいくつかある。シカについてはまた改めて記事にするが、このままではあと10年もすれば早池峰山の貴重な植物はほとんど見られなくなるかもしれない。
②ミネカエデについて
またある日、ミネカエデの研究をしているという方が来られて、ミネカエデの分類が混乱しているのを調べていると言う。それには思い当たることがあった。山で赤く紅葉しているカエデを、地元で基本的な文献となっている『早池峰の植物』(大迫町立山岳博物館編、1983年)で調べると写真はミネカエデしか出てこない。ところが世の中の図鑑(林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年)で調べるとミネカエデは黄色く黄葉するとなっている。
その研究者の方によると、現在広くミネカエデと呼ばれているのものは黄葉するもので、赤く紅葉するのはナンゴクミナカエデということになっているという。あれえ?
「赤く染まるコミネカエデというのもあります」
それは図鑑で見て、確かにそのようなやや小さくて葉先が細長いタイプのカエデもありますが、山の上(高山帯)にはコミネカエデの葉ではないような、赤いものもありますよ。
ミネカエデの学名は Acer tschonoskii 。種小名 tschonoskii は、命名したロシアの植物学者マキシモービチ(マクシモビッチ/マクシモヴィッチ)が標本を採集して送った須川長之助(現在の紫波郡紫波町出身)の名前からつけたものである。マキシモービチが見たその標本を長之助はどこで採集したのだろう。須川長之助は早池峰はもちろん日本の植物学の世界ではつとに知られた存在である。彼は早池峰山のほか日本全国で植物採集をしてロシアにいるマキシモービチに送った。長之助が採集したミネカエデの標本が残っていればそこに地名の記録がないか、そして可能ならDNAを調べて早池峰や他の地域のミネカエデやナンゴクミネカエデと比較すればいいのではないだろうか。
そんなことを考えた今年の秋でしたが、今、大迫にある花巻市総合文化財センターではまさにドンピシャの企画展をやっています。
「早池峰の花を紹介した人々ー早池峰植物研究小史ー」
2022年12月10日(土)〜2023年2月12日(日)
花巻市総合文化財センター 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
12/28〜1/3休館
この展示はすでに見ましたが、その話は年が変わるのでまた来年。

コ?ミネカエデ? 2022/10/6 早池峰山
山開きの前日に登山者がクマに襲われた衝撃から始まったシーズンでしたが、その後クマによる事故はありませんでした(県道での目撃は何件かありました)。それから日々色々あったのですが、特に記憶に残っていることを拾い出してみたいと思います。
①サンカヨウは早池峰でもう見られない。
7月中旬に早池峰山に来たお客さんがある花を見たいと仰るので何かと思ったらサンカヨウだと言う。サンカヨウ?珍しくもない…早池峰山の固有種でも希産種でもないし。そもそも7月にはもう花は終わっていますよ。と思ったがはて、最近花も実も見てないような。花は終わっても青い実が生っているのを見てもよさそうなものを。
それから早池峰山の小田越コース一合目までの樹林帯や薬師岳の樹林帯を歩くときに探してみたが、ない。おそらくこの数年でシカに食べられてしまったのだろう。サンカヨウが生えているような亜高山帯の森林の林床はシカの食害が広がり極端に植生が単純化している。もう早池峰山域でサンカヨウは見られないのかもしれない。
ほかにも見なくなった植物はいくつかある。シカについてはまた改めて記事にするが、このままではあと10年もすれば早池峰山の貴重な植物はほとんど見られなくなるかもしれない。
②ミネカエデについて
またある日、ミネカエデの研究をしているという方が来られて、ミネカエデの分類が混乱しているのを調べていると言う。それには思い当たることがあった。山で赤く紅葉しているカエデを、地元で基本的な文献となっている『早池峰の植物』(大迫町立山岳博物館編、1983年)で調べると写真はミネカエデしか出てこない。ところが世の中の図鑑(林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年)で調べるとミネカエデは黄色く黄葉するとなっている。
その研究者の方によると、現在広くミネカエデと呼ばれているのものは黄葉するもので、赤く紅葉するのはナンゴクミナカエデということになっているという。あれえ?
「赤く染まるコミネカエデというのもあります」
それは図鑑で見て、確かにそのようなやや小さくて葉先が細長いタイプのカエデもありますが、山の上(高山帯)にはコミネカエデの葉ではないような、赤いものもありますよ。
ミネカエデの学名は Acer tschonoskii 。種小名 tschonoskii は、命名したロシアの植物学者マキシモービチ(マクシモビッチ/マクシモヴィッチ)が標本を採集して送った須川長之助(現在の紫波郡紫波町出身)の名前からつけたものである。マキシモービチが見たその標本を長之助はどこで採集したのだろう。須川長之助は早池峰はもちろん日本の植物学の世界ではつとに知られた存在である。彼は早池峰山のほか日本全国で植物採集をしてロシアにいるマキシモービチに送った。長之助が採集したミネカエデの標本が残っていればそこに地名の記録がないか、そして可能ならDNAを調べて早池峰や他の地域のミネカエデやナンゴクミネカエデと比較すればいいのではないだろうか。
そんなことを考えた今年の秋でしたが、今、大迫にある花巻市総合文化財センターではまさにドンピシャの企画展をやっています。
「早池峰の花を紹介した人々ー早池峰植物研究小史ー」
2022年12月10日(土)〜2023年2月12日(日)
花巻市総合文化財センター 9:00〜17:00(入館は16:30まで)
12/28〜1/3休館
この展示はすでに見ましたが、その話は年が変わるのでまた来年。

コ?ミネカエデ? 2022/10/6 早池峰山
2022.08.03
早池峰国定公園40周年
今年、早池峰は国定公園に指定されてちょうど40周年を迎えました。
昭和57年6月10日にそれまでの県立自然公園から国定公園になったのです。
その周年を祝ったり記念したりする何事も、今のところ行われていません。
別に無意味なセレモニーをする必要はないと思いますが、これを見て関係者の皆さんはどう思うでしょうか。

かつて早池峰国定公園と書かれていたはずの物件です。

河原坊から県道を1.5kmほど下ったうすゆき山荘の向かいにあります。
コンクリート製のハリボテは表面がぼろぼろに剥がれていて見る影もありません。



穴空いて草生えてる。

丸太を模したものだったらしい。
国立公園の管理は国=環境省が行い、国定公園の管理は都道府県が行うので、早池峰国定公園の管理者は岩手県です。
このハリボテはおそらく岩手県が建てたものだと思います。
40周年を記念してこれに代わるものを建ててほしい、とは思いません。
ただ、このようなものを放置し続けるのはみっともないので撤去してほしいですね。

一方、こちらは県道をさらに下った笠詰付近にある国定公園の看板です。こちらは大迫町(平成18年に花巻市に合併)が建てたようです。
こちらも古色がついて草に埋もれ、もはや遺跡ですね。
考えてみれば、10年前に30周年も特にありませんでした。
周年記念がないこと自体はどうでもいいですが、なぜそういう話すら出ないかというと、ただ早池峰国定公園に対する行政の無関心ゆえです。それが残念です。岩手県であれ花巻・遠野・宮古各市であれ、もう少し早池峰に関心を持ってもらいたいですね。
これらの看板が建てられた頃、きっと行政にも地元にも今よりは活気があったのだろうなと思います。早池峰が国定公園になってきっと嬉しかったんだろうな。
このようなコンクリートの塊を自然公園に置いたり、今から思えば自然保護よりは観光振興的な色合いも濃く、それが早池峰山にとってよかったかどうかは分かりません。ただ、今は活気も何も、行政には早池峰に対する関心がないと思います。
シカ柵設置や登山道調査など、誰かに指摘されて必要に迫られた時には対処しますが、そもそも県も市も、早池峰国定公園をこうしていきたいというビジョンを持っていません。
担当者は数年で代わり、前任者からの引き継ぎもろくにないままに前年にあったことを毎年繰り返しているだけなのです。
早池峰山の価値をどのように守っていくかというビジョンなしでは、シカ対策事業も登山道の問題も後手後手に回り、手遅れになっていきます。
その価値はひとえに希少な高山植物群落にあります。登山者にとっても、早池峰山は花の名山として知られ百名山の一つでもあり人気の山です。その山が地元行政の無関心で荒廃していっていいものでしょうか。
周年を機会に、関係機関にはこれまでの早池峰国定公園のあり方をふり返り、これから10年後、20年後にどうなっていくべきか話し合って、ビジョンを示して頂きたいですね。
* * * * *
現実には、新しいことは毎年お願いしていることすらなかなか実現しません。
老朽化した河原坊の早池峰総合休憩所の修繕を何年も前から頼んでいますが、いっこうに着手される気配はありません。

今日は大雨で、休憩所では屋根からの雨漏りにいつもどおりバケツで対応していました。昭和の風景か。
昭和57年6月10日にそれまでの県立自然公園から国定公園になったのです。
その周年を祝ったり記念したりする何事も、今のところ行われていません。
別に無意味なセレモニーをする必要はないと思いますが、これを見て関係者の皆さんはどう思うでしょうか。

かつて早池峰国定公園と書かれていたはずの物件です。

河原坊から県道を1.5kmほど下ったうすゆき山荘の向かいにあります。
コンクリート製のハリボテは表面がぼろぼろに剥がれていて見る影もありません。



穴空いて草生えてる。

丸太を模したものだったらしい。
国立公園の管理は国=環境省が行い、国定公園の管理は都道府県が行うので、早池峰国定公園の管理者は岩手県です。
このハリボテはおそらく岩手県が建てたものだと思います。
40周年を記念してこれに代わるものを建ててほしい、とは思いません。
ただ、このようなものを放置し続けるのはみっともないので撤去してほしいですね。

一方、こちらは県道をさらに下った笠詰付近にある国定公園の看板です。こちらは大迫町(平成18年に花巻市に合併)が建てたようです。
こちらも古色がついて草に埋もれ、もはや遺跡ですね。
考えてみれば、10年前に30周年も特にありませんでした。
周年記念がないこと自体はどうでもいいですが、なぜそういう話すら出ないかというと、ただ早池峰国定公園に対する行政の無関心ゆえです。それが残念です。岩手県であれ花巻・遠野・宮古各市であれ、もう少し早池峰に関心を持ってもらいたいですね。
これらの看板が建てられた頃、きっと行政にも地元にも今よりは活気があったのだろうなと思います。早池峰が国定公園になってきっと嬉しかったんだろうな。
このようなコンクリートの塊を自然公園に置いたり、今から思えば自然保護よりは観光振興的な色合いも濃く、それが早池峰山にとってよかったかどうかは分かりません。ただ、今は活気も何も、行政には早池峰に対する関心がないと思います。
シカ柵設置や登山道調査など、誰かに指摘されて必要に迫られた時には対処しますが、そもそも県も市も、早池峰国定公園をこうしていきたいというビジョンを持っていません。
担当者は数年で代わり、前任者からの引き継ぎもろくにないままに前年にあったことを毎年繰り返しているだけなのです。
早池峰山の価値をどのように守っていくかというビジョンなしでは、シカ対策事業も登山道の問題も後手後手に回り、手遅れになっていきます。
その価値はひとえに希少な高山植物群落にあります。登山者にとっても、早池峰山は花の名山として知られ百名山の一つでもあり人気の山です。その山が地元行政の無関心で荒廃していっていいものでしょうか。
周年を機会に、関係機関にはこれまでの早池峰国定公園のあり方をふり返り、これから10年後、20年後にどうなっていくべきか話し合って、ビジョンを示して頂きたいですね。
* * * * *
現実には、新しいことは毎年お願いしていることすらなかなか実現しません。
老朽化した河原坊の早池峰総合休憩所の修繕を何年も前から頼んでいますが、いっこうに着手される気配はありません。

今日は大雨で、休憩所では屋根からの雨漏りにいつもどおりバケツで対応していました。昭和の風景か。
2022.06.14
3年ぶりの山開きと初めてのクマ人身事故
6月12日(日)、早池峰山で3年ぶりに山開き行事が行われました。2020年、2021年はコロナ禍により中止となっていました。このところコロナ陽性者数が減少していて、岩手県内でも各種催しが再開される方向になってきています。
今年は早池峰山登山口へのシャトルバス運行も再開されました。

早池峰山山頂 2022.6.12
さて、そんな3年ぶりの山開きでしたが、思ったより人出が少なかったです。以前は山開きの日には1日で1000人を超える登山者が集まることも珍しくなかったのですが今回は250人前後でした。
天気予報があまりよくなく、前日には盛岡で大雨の警報が出たこともあったのでしょうか。それとも前日に早池峰山の登山道で登山者がクマに襲われ負傷するという事故があったからでしょうか。
6月11日(土)、午後1時半ごろ?早池峰山小田越コース登山道の四合目と五合目の間で、登山者がクマに襲われ怪我をする事故が起きました。私は自然公園保護管理員業務で午後2時頃小田越登山口にいて第一報を聞き、その後自力で下山してきた被害者の方に会いました。被害者の方は50代男性で、下山時には意識もはっきりとして足取りも確かでしたが、左手首にタオルを巻いて頭の上に掲げて下りてこられ、また右頬と首に止血パッドを貼っていました。
現場で他の登山者が応急手当をしてくれて、119番通報もしたとのことでした。小田越に下山してまもなく救急車が到着し無事搬送されました。
被害者の方から聞いた、クマ遭遇の状況は次のようなものでした。
男性は、奥さんと登山に来ていて下山中だった。奥さんは少し後ろに離れて歩いていたので、奥さんを待ちがてら休憩を取るため登山道上で山(上方)に向かいリュックサックを下ろした。暑いので上着を脱いで丸めて(ザックにしまうために?)屈むと、自分の脇の下、つまり斜面の下の方から黒いものが近づいて来るのが見え、クマだと思った。次の瞬間にはクマはすぐ脇を通り抜けたのでそのまま行くのかと思ったら、上から向かってきた。ザックを押しつけ(るか投げつけるかし)て逃げようとしたが、クマはザックをガリガリっとした後、こちらに襲いかかった。クマはそれほど大きいクマではなかったが仔熊でもなかったようだ。
それから、奥さんや他の登山者が駆けつけた…とのことでした。
顔と首の傷は軽いようでしたが、本人によれば左手首には爪跡があり、止血した後に痺れてきたので一度タオルをほどくと、また出血してきたので再び縛ったとのことでした。病院に搬送された後のことはわかりません。命に別状がなくてよかったです。
襲ったクマがどちらへ行ったのかは聞けませんでしたが、攻撃はそれほど執拗なものではなかったようで幸いでした。
翌日、その現場を確認しました。

男性がクマに襲われた現場 2022.6.12
場所は小田越コース五合目から80mくらい下でしょうか、「お鉢巡り岩」と呼ぶ岩の30mほど下方の地面にはっきりと血痕が残っていてすぐに分かりました。
一帯は蛇紋岩の岩場とハイマツや高山植物の植生からなる環境で、周囲には高い木もなく見通しのよい場所です。被害者の方はザックを下ろして後ろ向きに休んでおり、出会い頭の偶発的な事故ではありません。クマはわざわざ襲ってきたものと思われます。
ただ、その場所は登山道に交差して獣道が走っており、ちょうど交差点のような場所でした。クマはどこから現れなぜ人を襲ったのか。
事故の状況を聞いたハンターさんによると、若いクマが攻撃の練習をしたのではないかということでした。一度通り過ぎて上から襲ったのも、攻撃するときは「上を取る」ということで、クマは襲う時は斜面の上から、逃げるときは下へ逃げるということです。
いずれにせよ、早池峰山登山道でのクマによる人身被害は、少なくともこの60数年間では初めてです。
今までもクマの目撃はありましたが、人が襲われて怪我をしたのは、私が早池峰山で管理員をするようになってからの15年間には聞いたことはありませんでしたし、早池峰に60年以上通うベテランさんに聞いても初めてだということです。
(以前、川井村の管理員さんが剣ヶ峰へ行く途中でクマに出会ったが虫除けスプレーを噴射したら逃げていった、ということがありましたが)
そして、この事案が晴天の午後1時半ごろという明るい時間帯に、しかもこの日の登山者は300人近くを数えており、まあまあ人通りが絶えないような状況での発生であったことが気になります。普通、登山の際のクマ対策としては鈴を鳴らしたりラジオを鳴らしたりして人の存在を知らせるとクマの方で離れていくことに期待するというものですが、今回の件に関してはその対策では予防できないものでした。
私達管理員は翌日の山開きを控え、その日のうちに管轄の役所に連絡しました。山開きの当日には、注意喚起を促す看板を設置したり登山者に注意を呼びかけるなどの対応をしました。猟友会による登山口付近でのパトロールも行われました。
ところで、このようなクマに対しては一体何を注意すればよいのでしょう。とにかく登山中は絶えず周囲に注意して不意打ちを食らわないようにすることでしょうか。クマ鈴はバッタリ遭遇を避けるためにつけたらよいでしょう。しかし人の存在を知りながら出てくる熊に対しては、距離があるうちに気付くために常に周囲に注意を払い、5m以上離れた距離で自分が風上にいる(というかなり限定された状況)の時にはクマスプレー、そして最悪接近されてしまった時のためには…武器を持っていてもよほどの格闘経験がなければとても戦えるとは思えません。せめて頭部に致命傷を負わないためにヘルメットを着用することが必要ではないでしょうか。ヘルメットは早池峰山のような岩山での転倒時にも役立ちます。
まだ始まったばかりの今年の早池峰山の登山シーズン、いきなり気を抜けない状況です。登山される方はどうぞ十分お気をつけ下さい。
今年は早池峰山登山口へのシャトルバス運行も再開されました。

早池峰山山頂 2022.6.12
さて、そんな3年ぶりの山開きでしたが、思ったより人出が少なかったです。以前は山開きの日には1日で1000人を超える登山者が集まることも珍しくなかったのですが今回は250人前後でした。
天気予報があまりよくなく、前日には盛岡で大雨の警報が出たこともあったのでしょうか。それとも前日に早池峰山の登山道で登山者がクマに襲われ負傷するという事故があったからでしょうか。
6月11日(土)、午後1時半ごろ?早池峰山小田越コース登山道の四合目と五合目の間で、登山者がクマに襲われ怪我をする事故が起きました。私は自然公園保護管理員業務で午後2時頃小田越登山口にいて第一報を聞き、その後自力で下山してきた被害者の方に会いました。被害者の方は50代男性で、下山時には意識もはっきりとして足取りも確かでしたが、左手首にタオルを巻いて頭の上に掲げて下りてこられ、また右頬と首に止血パッドを貼っていました。
現場で他の登山者が応急手当をしてくれて、119番通報もしたとのことでした。小田越に下山してまもなく救急車が到着し無事搬送されました。
被害者の方から聞いた、クマ遭遇の状況は次のようなものでした。
男性は、奥さんと登山に来ていて下山中だった。奥さんは少し後ろに離れて歩いていたので、奥さんを待ちがてら休憩を取るため登山道上で山(上方)に向かいリュックサックを下ろした。暑いので上着を脱いで丸めて(ザックにしまうために?)屈むと、自分の脇の下、つまり斜面の下の方から黒いものが近づいて来るのが見え、クマだと思った。次の瞬間にはクマはすぐ脇を通り抜けたのでそのまま行くのかと思ったら、上から向かってきた。ザックを押しつけ(るか投げつけるかし)て逃げようとしたが、クマはザックをガリガリっとした後、こちらに襲いかかった。クマはそれほど大きいクマではなかったが仔熊でもなかったようだ。
それから、奥さんや他の登山者が駆けつけた…とのことでした。
顔と首の傷は軽いようでしたが、本人によれば左手首には爪跡があり、止血した後に痺れてきたので一度タオルをほどくと、また出血してきたので再び縛ったとのことでした。病院に搬送された後のことはわかりません。命に別状がなくてよかったです。
襲ったクマがどちらへ行ったのかは聞けませんでしたが、攻撃はそれほど執拗なものではなかったようで幸いでした。
翌日、その現場を確認しました。

男性がクマに襲われた現場 2022.6.12
場所は小田越コース五合目から80mくらい下でしょうか、「お鉢巡り岩」と呼ぶ岩の30mほど下方の地面にはっきりと血痕が残っていてすぐに分かりました。
一帯は蛇紋岩の岩場とハイマツや高山植物の植生からなる環境で、周囲には高い木もなく見通しのよい場所です。被害者の方はザックを下ろして後ろ向きに休んでおり、出会い頭の偶発的な事故ではありません。クマはわざわざ襲ってきたものと思われます。
ただ、その場所は登山道に交差して獣道が走っており、ちょうど交差点のような場所でした。クマはどこから現れなぜ人を襲ったのか。
事故の状況を聞いたハンターさんによると、若いクマが攻撃の練習をしたのではないかということでした。一度通り過ぎて上から襲ったのも、攻撃するときは「上を取る」ということで、クマは襲う時は斜面の上から、逃げるときは下へ逃げるということです。
いずれにせよ、早池峰山登山道でのクマによる人身被害は、少なくともこの60数年間では初めてです。
今までもクマの目撃はありましたが、人が襲われて怪我をしたのは、私が早池峰山で管理員をするようになってからの15年間には聞いたことはありませんでしたし、早池峰に60年以上通うベテランさんに聞いても初めてだということです。
(以前、川井村の管理員さんが剣ヶ峰へ行く途中でクマに出会ったが虫除けスプレーを噴射したら逃げていった、ということがありましたが)
そして、この事案が晴天の午後1時半ごろという明るい時間帯に、しかもこの日の登山者は300人近くを数えており、まあまあ人通りが絶えないような状況での発生であったことが気になります。普通、登山の際のクマ対策としては鈴を鳴らしたりラジオを鳴らしたりして人の存在を知らせるとクマの方で離れていくことに期待するというものですが、今回の件に関してはその対策では予防できないものでした。
私達管理員は翌日の山開きを控え、その日のうちに管轄の役所に連絡しました。山開きの当日には、注意喚起を促す看板を設置したり登山者に注意を呼びかけるなどの対応をしました。猟友会による登山口付近でのパトロールも行われました。
ところで、このようなクマに対しては一体何を注意すればよいのでしょう。とにかく登山中は絶えず周囲に注意して不意打ちを食らわないようにすることでしょうか。クマ鈴はバッタリ遭遇を避けるためにつけたらよいでしょう。しかし人の存在を知りながら出てくる熊に対しては、距離があるうちに気付くために常に周囲に注意を払い、5m以上離れた距離で自分が風上にいる(というかなり限定された状況)の時にはクマスプレー、そして最悪接近されてしまった時のためには…武器を持っていてもよほどの格闘経験がなければとても戦えるとは思えません。せめて頭部に致命傷を負わないためにヘルメットを着用することが必要ではないでしょうか。ヘルメットは早池峰山のような岩山での転倒時にも役立ちます。
まだ始まったばかりの今年の早池峰山の登山シーズン、いきなり気を抜けない状況です。登山される方はどうぞ十分お気をつけ下さい。