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今年、早池峰は国定公園に指定されてちょうど40周年を迎えました。
昭和57年6月10日にそれまでの県立自然公園から国定公園になったのです。
その周年を祝ったり記念したりする何事も、今のところ行われていません。
別に無意味なセレモニーをする必要はないと思いますが、これを見て関係者の皆さんはどう思うでしょうか。



かつて早池峰国定公園と書かれていたはずの物件です。



河原坊から県道を1.5kmほど下ったうすゆき山荘の向かいにあります。
コンクリート製のハリボテは表面がぼろぼろに剥がれていて見る影もありません。






穴空いて草生えてる。


丸太を模したものだったらしい。

国立公園の管理は国=環境省が行い、国定公園の管理は都道府県が行うので、早池峰国定公園の管理者は岩手県です。
このハリボテはおそらく岩手県が建てたものだと思います。
40周年を記念してこれに代わるものを建ててほしい、とは思いません。
ただ、このようなものを放置し続けるのはみっともないので撤去してほしいですね。



一方、こちらは県道をさらに下った笠詰付近にある国定公園の看板です。こちらは大迫町(平成18年に花巻市に合併)が建てたようです。
こちらも古色がついて草に埋もれ、もはや遺跡ですね。

考えてみれば、10年前に30周年も特にありませんでした。
周年記念がないこと自体はどうでもいいですが、なぜそういう話すら出ないかというと、ただ早池峰国定公園に対する行政の無関心ゆえです。それが残念です。岩手県であれ花巻・遠野・宮古各市であれ、もう少し早池峰に関心を持ってもらいたいですね。

これらの看板が建てられた頃、きっと行政にも地元にも今よりは活気があったのだろうなと思います。早池峰が国定公園になってきっと嬉しかったんだろうな。
このようなコンクリートの塊を自然公園に置いたり、今から思えば自然保護よりは観光振興的な色合いも濃く、それが早池峰山にとってよかったかどうかは分かりません。ただ、今は活気も何も、行政には早池峰に対する関心がないと思います。

シカ柵設置や登山道調査など、誰かに指摘されて必要に迫られた時には対処しますが、そもそも県も市も、早池峰国定公園をこうしていきたいというビジョンを持っていません。
担当者は数年で代わり、前任者からの引き継ぎもろくにないままに前年にあったことを毎年繰り返しているだけなのです。
早池峰山の価値をどのように守っていくかというビジョンなしでは、シカ対策事業も登山道の問題も後手後手に回り、手遅れになっていきます。
その価値はひとえに希少な高山植物群落にあります。登山者にとっても、早池峰山は花の名山として知られ百名山の一つでもあり人気の山です。その山が地元行政の無関心で荒廃していっていいものでしょうか。

周年を機会に、関係機関にはこれまでの早池峰国定公園のあり方をふり返り、これから10年後、20年後にどうなっていくべきか話し合って、ビジョンを示して頂きたいですね。

* * * * *

現実には、新しいことは毎年お願いしていることすらなかなか実現しません。
老朽化した河原坊の早池峰総合休憩所の修繕を何年も前から頼んでいますが、いっこうに着手される気配はありません。



今日は大雨で、休憩所では屋根からの雨漏りにいつもどおりバケツで対応していました。昭和の風景か。
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6月12日(日)、早池峰山で3年ぶりに山開き行事が行われました。2020年、2021年はコロナ禍により中止となっていました。このところコロナ陽性者数が減少していて、岩手県内でも各種催しが再開される方向になってきています。
今年は早池峰山登山口へのシャトルバス運行も再開されました。


早池峰山山頂 2022.6.12

さて、そんな3年ぶりの山開きでしたが、思ったより人出が少なかったです。以前は山開きの日には1日で1000人を超える登山者が集まることも珍しくなかったのですが今回は250人前後でした。
天気予報があまりよくなく、前日には盛岡で大雨の警報が出たこともあったのでしょうか。それとも前日に早池峰山の登山道で登山者がクマに襲われ負傷するという事故があったからでしょうか。

6月11日(土)、午後1時半ごろ?早池峰山小田越コース登山道の四合目と五合目の間で、登山者がクマに襲われ怪我をする事故が起きました。私は自然公園保護管理員業務で午後2時頃小田越登山口にいて第一報を聞き、その後自力で下山してきた被害者の方に会いました。被害者の方は50代男性で、下山時には意識もはっきりとして足取りも確かでしたが、左手首にタオルを巻いて頭の上に掲げて下りてこられ、また右頬と首に止血パッドを貼っていました。
現場で他の登山者が応急手当をしてくれて、119番通報もしたとのことでした。小田越に下山してまもなく救急車が到着し無事搬送されました。

被害者の方から聞いた、クマ遭遇の状況は次のようなものでした。

男性は、奥さんと登山に来ていて下山中だった。奥さんは少し後ろに離れて歩いていたので、奥さんを待ちがてら休憩を取るため登山道上で山(上方)に向かいリュックサックを下ろした。暑いので上着を脱いで丸めて(ザックにしまうために?)屈むと、自分の脇の下、つまり斜面の下の方から黒いものが近づいて来るのが見え、クマだと思った。次の瞬間にはクマはすぐ脇を通り抜けたのでそのまま行くのかと思ったら、上から向かってきた。ザックを押しつけ(るか投げつけるかし)て逃げようとしたが、クマはザックをガリガリっとした後、こちらに襲いかかった。クマはそれほど大きいクマではなかったが仔熊でもなかったようだ。
それから、奥さんや他の登山者が駆けつけた…とのことでした。

顔と首の傷は軽いようでしたが、本人によれば左手首には爪跡があり、止血した後に痺れてきたので一度タオルをほどくと、また出血してきたので再び縛ったとのことでした。病院に搬送された後のことはわかりません。命に別状がなくてよかったです。
襲ったクマがどちらへ行ったのかは聞けませんでしたが、攻撃はそれほど執拗なものではなかったようで幸いでした。

翌日、その現場を確認しました。


男性がクマに襲われた現場 2022.6.12


場所は小田越コース五合目から80mくらい下でしょうか、「お鉢巡り岩」と呼ぶ岩の30mほど下方の地面にはっきりと血痕が残っていてすぐに分かりました。
一帯は蛇紋岩の岩場とハイマツや高山植物の植生からなる環境で、周囲には高い木もなく見通しのよい場所です。被害者の方はザックを下ろして後ろ向きに休んでおり、出会い頭の偶発的な事故ではありません。クマはわざわざ襲ってきたものと思われます。
ただ、その場所は登山道に交差して獣道が走っており、ちょうど交差点のような場所でした。クマはどこから現れなぜ人を襲ったのか。
事故の状況を聞いたハンターさんによると、若いクマが攻撃の練習をしたのではないかということでした。一度通り過ぎて上から襲ったのも、攻撃するときは「上を取る」ということで、クマは襲う時は斜面の上から、逃げるときは下へ逃げるということです。

いずれにせよ、早池峰山登山道でのクマによる人身被害は、少なくともこの60数年間では初めてです。
今までもクマの目撃はありましたが、人が襲われて怪我をしたのは、私が早池峰山で管理員をするようになってからの15年間には聞いたことはありませんでしたし、早池峰に60年以上通うベテランさんに聞いても初めてだということです。
(以前、川井村の管理員さんが剣ヶ峰へ行く途中でクマに出会ったが虫除けスプレーを噴射したら逃げていった、ということがありましたが)

そして、この事案が晴天の午後1時半ごろという明るい時間帯に、しかもこの日の登山者は300人近くを数えており、まあまあ人通りが絶えないような状況での発生であったことが気になります。普通、登山の際のクマ対策としては鈴を鳴らしたりラジオを鳴らしたりして人の存在を知らせるとクマの方で離れていくことに期待するというものですが、今回の件に関してはその対策では予防できないものでした。

私達管理員は翌日の山開きを控え、その日のうちに管轄の役所に連絡しました。山開きの当日には、注意喚起を促す看板を設置したり登山者に注意を呼びかけるなどの対応をしました。猟友会による登山口付近でのパトロールも行われました。

ところで、このようなクマに対しては一体何を注意すればよいのでしょう。とにかく登山中は絶えず周囲に注意して不意打ちを食らわないようにすることでしょうか。クマ鈴はバッタリ遭遇を避けるためにつけたらよいでしょう。しかし人の存在を知りながら出てくる熊に対しては、距離があるうちに気付くために常に周囲に注意を払い、5m以上離れた距離で自分が風上にいる(というかなり限定された状況)の時にはクマスプレー、そして最悪接近されてしまった時のためには…武器を持っていてもよほどの格闘経験がなければとても戦えるとは思えません。せめて頭部に致命傷を負わないためにヘルメットを着用することが必要ではないでしょうか。ヘルメットは早池峰山のような岩山での転倒時にも役立ちます。

まだ始まったばかりの今年の早池峰山の登山シーズン、いきなり気を抜けない状況です。登山される方はどうぞ十分お気をつけ下さい。
2021年8月22日(画面の日付はカメラの故障により誤り)早池峰山南面標高1614m。
ニホンジカの若いオスが約30分間滞在し植物を食べ続ける。

2021年8月22日(カメラの故障により日付がずれています)、早池峰山南面標高1614m付近。
ニホンジカ8頭(不明1、若オス7)が記録される。
周辺の草原では一部裸地化が進行している。

何年も早池峰山に通っている方は気づいていると思いますが、小田越コースや薬師岳の樹林帯では、ここ数年で林床の植生が著しく変化しています。

小田越登山口から一合目までの30分ほどの樹林帯歩き。
かつてこの登山道の両脇には様々な植物があって目を楽しませてくれました。
いま、それらの多くが目に付かなくなりました。思い出せるだけでも、フキ、ショウジョウバカマ、ミヤマカラマツ、モミジカラマツ、ゴヨウイチゴ、カニコウモリ、数種のセリ科植物…を、今年は見ることができませんでした。
この樹林に夏の間常駐しているニホンジカが数年のうちに食べてしまったからです。
一昨年、このブログでカニコウモリが来年にはなくなると書きましたが、実際になくなりました。


2018/6/11 まだカニコウモリがあります。


2019/8/14 カニコウモリが食害を受けています。フキと同じで、葉は食べずに茎を食べていました。
(2018年の写真の場所はこの写真では奥に写っている場所になります)


同上


2021/9/10 カニコウモリは見当たらなくなりました。(以下、しばらく同日)


よく見ると完全になくなったわけではなく、ごく小さな葉が残っています。


その大きさは一枚がボールペン3分の1ほどの長さしかありません。


こちらはもっとちっぽけです。お話にならない大きさです。これで光合成を?

植物は一度シカに食べられると次からは体を小さくして生えてくるようです。気をつけて地表を見ると、同じように小さくなってしまった植物を見つけることができます。


春にさっぱり花を見なかったショウジョウバカマは小さくなって生き延びていました。


カラマツソウの類かと思われます。


エゾノヨツバムグラです。


イワオトギリ…

いずれもボールペンの先ほどの大きさしかありません。すべてミニチュアみたいになってしまいました。
これでは足元をよく見なければ目につくはずがありません。小さくなっただけではなく姿を消した株も多いことでしょう。


去年、登山道沿いにヒロハテンナンショウというマムシグサの仲間がかたまって花を咲かせました。なかなか見事でした。


2020/7/2


ところが、ほどなくしてシカに食べられてしまいました。 2020/7/24


同上


テンナンショウ属には毒があると言われていますが、平気なのでしょうか。

今年、それらの株は葉を出しましたが、全体に小ぶりになっていました。


2021/06/15

ヒロハテンナンショウは希少種に指定されてはいませんが、また食べられると絶えると思い柵で囲いました。


2021/7/9


2021/9/10 食べられずに済みましたが、結局これ以上大きくはなりませんでした。


現在、小田越の樹林帯(およそ標高1250m〜1400m)の下層植生は、もともと優占種であったササに、他の植物がなくなり目立つようになったイネ科(シカが優先して食べないことと成長点が地表近くにあるため残りやすい)などの中に所々で裸地化した部分が見える状況になっています。


2021/7/2

この状態は年々進行していて、シカがこの樹林にいる限り元に戻ることはないと思われます。
そして今後はだんだんにササも無くなっていくと予想されます。
というのは、山麓の標高の低い地域ではすでにササすら失われているからです。


2021/5/22 県道25号の花巻側、標高650m付近。

この辺りには冬もシカがいてササを食べているので、5月の新緑の季節に林床には緑の草もササもなく真っ茶色という状況になっています。
これが小田越樹林帯の林床の数年後の姿かもしれません。


前回、植生保護柵の効果について書きました。河原坊コースの下部では4年目、小田越コースや薬師岳周辺では3年目になりました。確かに柵の中の植生は保護されるのですが、今年は柵の外との差が顕著に観察できました。4年の間に柵の外側にはかつてあった植物がほとんど見えなくなってしまいました。

今年、岩手県が設置した植生保護柵にシカが絡まって死ぬということが3件起きました。1件は若いオスのツノが、あと2件は仔鹿の首がネットにからまったものでした。
原因はネットの網目の大きさや張り方にも求められますが…ネット自体は4年間同じものを使っているのに、なぜ今年3件も起きたのかということです。

二つの可能性が考えられます。
一つは、柵の外に食べるものが少なくなっているのではないかということです。
つまり、「ネットに首を突っ込んででも食べたい草が柵の中にあった」ということ。
もう一つの可能性はシカの個体数じたいが増えているのではないかということです。
その両方かもしれません。

岩手県や国(森林管理局)のシカ対策が具体的に始まって4年目となります。県、国とも対策として植生保護柵の設置とシカの捕獲を行っていますが、今年の状況を鑑みるに今の対策だけではまだまだ不十分だと言わざるを得ません。
現在行われている植生保護柵の設置は緊急性の高い貴重な植生を部分的に守るという限定的な対策です。
そもそも早池峰山域にシカを侵入させない遮断柵の設置が同時に必要ではないでしょうか。
捕獲に関してはこれまで冬季の越冬地での捕獲が中心でしたが、今年初めて森林管理局により夏季に罠捕獲が実施されました。
これを国でも県でもいいので時間的にも空間的にも拡大し、雪解けの時期から秋まで、さらに多くのシカの生息場所で行うべきでしょう。
どちらにも大変お金がかかります。

おりしも今月は岩手県議会が開かれて来年度の予算の話をしているかと思いますが…

岩手県の令和3年度の早池峰山のシカ対策の予算はいったいどれだけだったのかというと…


岩手県 令和3年度予算関係資料


よく分かりませんでした。シカ・イノシシ対策ということで全県いっしょくたで1億6650万円ということのようです。


ところで、岩手県は ILC(国際リニアコライダー)推進にまだ1億円も予算をとっていますね(令和3年度)。
このような大規模な環境破壊を生む、しかも誘致がほぼ絶望的になったものにいつまで県民の税金をつぎ込むのか、いい加減にやめてもらいたいですね。
岩手県で ILCを推進している人のほとんどは多分、宇宙物理学に興味があるのではなくその過程で発生するお金に興味があるだけです。それと引き換えに本当に地盤が安定しているかどうかも不確実な北上山地に大穴を開けて環境を破壊し(地下水のことを考えていますか?また、掘り出した土はどこの谷を埋めて盛り土しますか?)、稼働中には放射性物質が発生、またその稼働が終わった後には廃墟が残り人は去る。それでいいのですか?
以前、岩手県は「いわて環境王国」などとのたもうていたが、その豊かな自然を目先の金のために一度失えば取り返しはつかないのです。
私は前回の県議会選挙の時、ILCに反対する候補がいないものかと選挙公報を目を皿にして読みましたが誰もいなかったので投票先がなくて困りました。

岩手県はILC予算を全部やめてそのお金で早池峰山をまるっと柵で囲ってください。
そしてシカの捕獲にもっとお金をつぎ込む。
実現しそうもない、実現しても県土を破壊するくだらない夢に税金をつぎ込んで目の前の危機を見過ごしている場合ではありません。
… ILCで税収が増えたら早池峰山にも潤沢な予算が? 間に合わないね。

このままでは早池峰山は本当にハゲ山になります。
世界中でここ早池峰山にしかない貴重な生態系が失われようとしています。